8-21 日記
「大丈夫嫌われてない大丈夫大丈夫大丈夫」
「トワ?」
僕とベルテ、そして妹でアウロ・プラーラへとやって来た。ここはもう前回の世界線。だから指名手配もされていないし、赤金級冒険者で大人気なんだ。
でも、緊張することには変わりない。アランに「化け物」って言われたのが頭から離れないから。
「あ、トワ!良かった。やっと見つかった。突然消えるからびっくりしたよ。ネジャロー!こっちこっち!いたよー!」
人の字を書いて飲み込んでも収まることなんて無い。まだまだ心の準備ができていないというのにアランに見つかった。
情けないことに、僕はベルテの後ろから顔だけ出して様子を伺っている。
「お嬢!第五ダンジョンに殴り込みに行くって話だったろうがよー。忘れちまったのか?」
第五……ということは、昇給祝いの宴会前に戻ったのか。結構ズレたんだな。いやいや、そんな事より
「み、みんな。僕のこと好き?嫌いじゃない?」
これが一番大事だ。分かりきっているはずなのに、確認せずにはいられない。
「そんなの当たり前じゃないか。僕たち恋人同士なんだし。
ネジャロだって頼りになるって言ってたもんね」
「あぁ!いつかは越えたい目標だがな!」
「よ、良かった!嫌われてなかったよー!」
「はい。当たり前です!でも、私が一番愛していますからね!」
「……え?」
――あ!忘れてた。この世界線ではアランと付き合ってるんだった。え、でもどうしよう。僕はベルテのことが好きだし……
「ね、ねぇトワ?どうにかなんない?」
「無理ね。今の私はお兄ちゃんの劣化みたいなものなんだから、お兄ちゃんにできないことは私にもできないわ」
「そんなぁー」
仲間内で恋愛などするからこうなるのだ。
妹にも頼れない。アランは混乱中。ベルテは僕のことを奪う気満々。ネジャロは……興味無さそう。
「あ、えっと……えっと……アラン!ごめんなさい!」
カチリ。
僕の頭の中でレールが組み替わる音が聞こえた。
「お兄ちゃん……」
「だ、だってしょうがないじゃん!」
「はぁ……」
今回大きな変更なはい。ただ、グレイス王国でアランに告白をしなかった世界線に変わっただけだ。
ここで覚えているのは、時間魔法が使える僕と妹だけ。
「ま、誰も不幸になって無いのだからいいんじゃない」
「そ、そうだよね!クポ爺もこういう時のために僕を選んでくれたんだよね!」
恐らく、これからも今回のように食い違う箇所が出てくるだろう。でも、その時はまた都合のいいところに替えてしまえばいいのだ!
何やら意識の奥底の方で暴れようとしている存在がいるが、僕のことを選んだのはお前だ。もう遅い。
「ほらお嬢!ダンジョンに行こうぜ!」
「あ、はい。行きます行きます。でもちょっとその前に話があって――」
ネジャロに伝言。力の神ダイナミからの伝言というか、なんと言うか。まあ、仕事の押しつけなのだが。
とにかくそれを、ネジャロに伝えるだけ伝える。断られた時は残念でした、という事になるけども。
「なんだそんな事か。別に構わねぇぜ。だが、後でその筋肉ダルマとやらと戦わせてくれよな!それで受けてやる!」
ネジャロは筋肉ダルマからの仕事を受けた。神だということは伝えていないが、アレはなんか神っぽくないしいいか。
さて、これでとりあえずの用事は終わったのかな?アランたちと合流も出来たし、エルフィエンドらは時が来たら自分の足で行くって言っていたし。
これからの目標に、妹が望んだ平和な世界を作るって言うのがあるけど、それは旅しながらゆっくりやっていけばいい。
そうだ!旅!
この世界に来た時、一番に思ったことをすっかり忘れていた。
「トワ!世界旅行をしよう!」
「ええそうね。楽しみだわ」
ようやくだ。ようやく僕とトワは本当の意味で一緒に旅ができる。
あの時、日本で願った夢を叶えられる時が巡ってきたんだ。
「よっし!ネジャロさん!さっさと行ってさっさと倒してきましょう!それで、さっさと次の国に行くんです!」
「お、おうよ!」
「それじゃあみんな!宴会のときにまた!」
僕は新鮮な気分で駆け出した。
異世界の旅はここから再スタートだ!
「おっと、その前に」
カチリ
どこか遠い場所で世界線が変わった。
「これはこれで、きっと幸せなんだよね」
◇◆◇
「ちょっとー、ちゃんと勉強してる?」
「あ、お母さん。うん、してるよ。してるしてる」
「ホントに?で、何を書いてたの?」
「あー……はぁ。んーと、日記?みたいなものかな?」
「ふーん、そ。ちゃんと勉強しなさいねー」
この物語は、別の世界に行った僕の物語。
孤独で不幸だった少年が、幸せになる物語。
「っと。よし、お母さんもうるさいし、宿題やっちゃうか」
前章 Fin
前章完結!ちょうど100話で完結です!
まだまだ拙い文章力だったと思いますが、ここまで読んでくださった方、応援してくださった方、感想や評価をつけてくださった方。誠にありがとうございます。
この後には妹が主人公となる続章が続くので、そちらもぜひ楽しんで貰えたらなと思います。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!