カマキリたちの社会問題
人間の地名で言えば茨城県水戸市になるが、その地域内のとある公園には、マンティス共和国と呼ばれるカマキリたちの国が存在する。人間の時間で言えば二〇〇七年に建国され、幾度かの災害、幾度かの同族争い、幾度かの男子小学生による蹂躙を乗り越えて、ゆっくりと発展を遂げてきた。
マンティス共和国の首都、ウエストシーソー。ここにはカマキリたちの議会が置かれている。この日は委員会質疑のため、マンティス共和国各大臣が集まった。現在、マンティス共和国の都市部では出生率低下が社会問題として取り上げられている。その最たる原因は、妻が夫を食べるという昔ながらの風習に対する嫌悪感だ。
「男性の体にある栄養分を女性が摂取することで卵をより多く産めることは、今世代の国立中央大学の研究により証明された。『昔からやっていることだから』という理由だけではないゆえに、思想の自由と国家の持続を調和させるという問題は、簡単に答えを出せるものではない」
マンティス共和国で六世代振りの男性首相となった現職のカーマ氏が就任演説で述べた言葉である。
愛する女とはいえ、食べられたくないという男。愛する男だからこそ、食べたくないという女。近年、そう考えるカマキリの割合が増えてきている。かつては妻に食べられること、夫を食べることが最大の愛情表現だという考えが半ば常識であり、現在でもノースツリーをはじめとする限界集落や地方では風習維持の意見が根強い。
ウエストシーソーからノースツリーへ移り住み、余生を過ごすキリー元国立中央大学教授はこう語る。
「私はかつて、女性がなぜパートナーを食べるのかについて研究しましたが、それは研究しないほうが良かったのかもしれません。この辺りは前時代的ではありますが、多くの卵がぶら下がりました。……ただ、夏前の私の予測が正しかったのだと喜ぶと同時に、苦しむ男女も多く見てきました。私が行った研究の価値を見極めることは、私たちに残された時間の中では不可能です」
カマキリの寿命は人間の感覚では約半年。冬を越すのは卵のみである。