スマイル02 水もしたたる俺様(イイ)男
「なぁ、ミュー、お前はい・く・ら・で・処・女・売・る・の?」
ミューは肩を震わせていた。
羞恥心でいっぱいなんだろう。こんなちょっとの下ネタとも言えないような会話で黙ってしまうなんて、夜の世界ナメんなよ。
そんなネンネでやっていけるような世界じゃないって事、俺が教えておいてやるよ。
「俺みたいなイケメンとできるんだぜ? 最高だろ? しかも金貰えるんだからさ。ラッキーだろ! 俺がお前の事、買ってやるよ」
ちょっと悪ノリしてからかいすぎかな、と思ったけど、別に俺は客なんだからいーだろ。
あーあ。泣いて辞めるかな?
ま、新人が今日一日で店を辞めた所で、別にこの店が困るわけでも何でもないんだ。
「・・・・ざけるな」
「はっ? 聞こえねーよ」
「ふざけるなっ、このセクハラ野郎っ!!」
バシャッ
キレたミューが、俺の顔面めがけて、水割り用のデキャンタに入った水をぶちまけた。
「おっ・・・・お前――」
バチン!
何するんだよ、と言いかけた次の瞬間、左頬に痛みが走っていた。
「女をバカにしないでよね! アンタみたいな男、たとえ一億円積まれたってお断りよ!! 男のクズっ、消えなさい!」
ガン、とデキャンタをテーブルに叩きつけ、ミューは席を立った。
「すみません、やっぱり私この仕事ムリです。今日で辞めさせて頂きます」
奥の方で呆然としているママに向かってぺこりと一礼すると、ミューはそのままスタスタと歩き出し、店の外に出て行った。
なっ・・・・
何なんだ、あの女――――!?
俺に水かけたどころか、頬にビンタかまして行きやがった!
誰にも叩かれた事の無いこの、俺様に向かって!!
「おっ、王雅様っ、誠に申し訳ありません!!」
ハッ、と我に返ったママが白いタオルを沢山持って、飛んできた。
「ああっ、王雅様のスーツが・・・・」
俺は、震えていた。
驚いた事にそれは怒りにではなく、別のワクワク感から来るものだった。
――あんな女が、いたんだ。
俺は笑った。
お気に入りの面白いオモチャ、見つけた子供のように。
「ママ、今日は帰るわ。また来るからさ、あのミューってヤツの履歴書、ちょーだい。今日の件はそれでチャラだ。――いいな?」
凄みを効かせるとママは何度も頷いて、すぐにミューの履歴書を持ってきた。
ホントなら個人情報漏洩になるから、店側としてはやりたくない行為だろうけど。
でも、俺は特別だからいーんだ。
断れば、この店が潰れるのは誰もが解っている事だから。
誰も俺には逆らえない。
誰も俺には手出ししない。
その誰もが越えることの出来ない垣根を、アイツはたった十分そこそこであっさり破って超えてきたんだ。
おもしれー。
おもしれーよ、ミュー!
絶対お前の事探し出して、俺に土下座して謝らせてやるよ。
そんで俺が、お前の処女、奪ってやる!
足腰も立たなくなるくらいにめちゃくちゃにして、捨ててやるから。
覚悟しとけ。
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