村と村人
スランプ……なんとかかけた。
2021/01/02更新
家に帰ったらどっちかが包丁で刺されて死んでたらどうしよう、などと一抹の不安を覚えながらも修羅場に父と母を残して家を出る。
部屋の扉に比べて玄関のドアの方が開けやすかった。
自分が5歳の時ってドアを開けるのにも一苦労したような気がしたが、簡単に開けられたのは、この体が頑丈で、元の自分が貧弱だっただけだろう。
いざ鎌倉!
ガチャリと音を立ててドアを開けた先には、美しい風景が広がっていた。
ルルシヴァクとしては見慣れた風景でも、現代っ子である自分にはこの風景は素晴らしいものだった。
緑滴る山々とどこまでも広がるカーペットのような草原に咲き乱れる花々。
空はパステルカラーに煌めき、雲は薄桃色に染まっている。
なんとも幻想的な美しさではないか。
思わず、目の前の美しい景色にふぅ、と溜息が出た。
テレビ越しにみた地中海沿岸ような風景が一番美しいと思っていたがとんでもない!
これほどに心が踊る光景があっただろうか?
いや、ない。
空は良く晴れていて、ぽつぽつと綿雲が浮かんでいる。どこまでも続くような草原の向こうには巨大な山が壁のようにそそり立っている。
そこから吹き降りてきただろう風が髪を巻きあげる。
心地の良い風が肌を撫でるが上空はよほど風が強いのか、早送りのように雲が遠くへ流れて行く。
「やっほーっ!!」
山が目の前にあったからつい叫んでみたくなり、声を上げてみたが返っては来なかった。遠すぎたのだろう。
山の大きさからしてそんなに遠くにないと踏んだがどうやら遠くからみてもでか過ぎるほどの存在感を示すこの山は本当に馬鹿デカイのだろう。
"エベレストよりありそう……"とエベレストには言ったことないがそんなことを思った。
目の前に広がる草原とはいえどただの草っ原ではない。
見飽きたどこにでもあるようなイネ科らしき雑草が8割。残りは白や赤い花々が咲いているが、注目すべきはそこではない。
不自然に盛り上がって地面に、崩壊したような石積みの壁や傾いた塔。
のどかな農村というより古代文明の跡地と言った方がいいか。
ほとんどが朽ちたか壊れたかで基礎しかないが、それでもかなりの規模だとみて取れる。地平線の向こうまで続く壁は万里の長城のようにも見えなくもないし、折れた塔のような建造物はピザの塔よりよっぽど傾いている。
実はこの塔に村人が住んでいることを知っている。
まあ、何ということの無い話で俺たちが今、住んでいる家も塔を改修したものであるからだ。
こう言った遺跡を使って暮らしていることから、ライオスはこの村を遺跡の村と呼んでいたが……よく考えなくてもそのままじゃねえか。
両親とも村の名前について話していることがないので村の名前は不明である。
日本であれば観覧板か地方紙か市内放送とかでインターネットが見れない環境でも自分がどこにいるかわかるものだが、そんなものはない。ああ、もしかしたら広場に行けば掲示板なりあるかもしれないが、期待は出来ない。
過去に聞いた話では、遺跡の村は閑散としているように見えても結構人はいるらしい。
これが初めての外出ではないが、ルルシヴァクはどうやら小心者らしくあまり家のそばから離れなかったらしい。
だから村についてほぼ何も知らない。無知だ。
ただ昼間は大人たちは仕事をしていて子供もほとんどいないといういうのは、ライオスが言っていたのを覚えている。
だから当然、村人は目視できないわけでどこが何なのかわからない。
目的もないまま道なき道を歩く。
目的はなくはない。見たことがない場所は歩いて自分の中で地図を作る、要はマッピングをしている。
雪国で道に迷うと最悪死に直結する。
子供の頃から身についた癖が抜けずこうして雪と無縁の土地でもついつい歩き回ってしまう。
道はないとはいったが、それでめや草原に生えた草は背が低く子供の自分が歩きづらさを感じることはない。
たまに草に引っかかるが歩けばぶちぶちと草が抜ける音がする。随分と草が抜けやすい土地なんだな。
それにしても寂しい村だ。
辺境らしいからそんなものかとは思うが人数的な問題ではない。
どういうわけか外に洗濯物や物を売っている場所がない。外国では観光的な問題で景観を守るため洗濯物をそとに干すのを禁止している場所もあるらしいが、観光客なんてくるとは思えないこんな村では生活感もなく人のいない遺跡群ではただの廃墟にしか見えない。
夜は祭りだのをやるらしいが、昼間は本当に誰もいない。
野生生物もいない。
こういう遺跡類があるところだと鳥が巣を作っていたりするものだが、誰だか知らないが遺跡を綺麗に保存している連中がいるのだろうか。
鳥の囀りもなければ、下をみてもモグラの穴すらない。
草を踏んでもバッタや羽虫が飛び出してきたりしないし、塔は苔むしている割には蜘蛛の巣や蓑が釣り下がっている様子もない。
なんか不気味じゃね?
風のせいか、なんだか薄寒く思えてきた。
気を紛らわせようと何かないか探しているとさっきは気づかなかったが、いつの間にか村人と思われる人が、家の外に出て空になにかをかざしているのが見えた。
第一村人発見!
村人は茶色の地に緑と青の三角模様の入った服を着ていた。
遺跡も茶色くて緑色をしているせいでわからなかった。迷彩服より迷彩してるよ。と思いながら近寄る。
なんて声をかけよう。
"こんな昼間から外にでて仕事しないんですか?"……でいいかな。
"うっせ!クソガキ死ね!"
俺ならそう返すわ。やめよう。
っと、冗談は置いておくとして。
「何してるの?」
もちろんこんな時間に働かないで、という言葉は省略させてもらうが。
「ん……。星を見てるんだ」
魂の抜け落ちたような目と青白い肌から死んでいるようにしか見えない男は、空を見上げたままそう答えた。
「星?」
星なんて見えるわけねぇじゃん!今、こんなに空があかるいのに……馬鹿かって、ああ。もしかして隠語か何かか?
仕事がないとかそんな感じの。
「……見えないか?あの赤い星と輝く大きな青い星が三つ」
「わからない。星なんて見えないなー。本当に星なんて見えるの?」
「……興味あるか?」
え?何かやばい人?この人。
へんな宗教がらみじゃないだろうな。
まあ、興味あるっちゃあるけど。
この体に入ってから少ししか経ってないけど色々気になるものがあるし、もしかしたら教えてくれたりするかも……。
「あるけど」
「……けど、どうした?」
「パパがいいって言うかわからないから、しんぱいなんだ」
とりあえず保留。ダメな理由は親のせいに。
「……そうか、星が見たくなったらまた来い。いつでも見方を教えてやるからな」
変な溜めをつけて喋るおっさんに別れを告げ歩き出した。
空を見上げたまま微動打にしないその様子が蝋人形のようでいわれもない不気味さを感じた。
少し気になってふと後ろを振り返るとそこには、誰もいなかった。
突然のホラー要素!!
次回は村の外れへ向かいます。まだまだ探査は続きます。