飯とカルチャーショック
※ルルシヴァク=主人公
※ライオス=ルルシヴァクの父
※メイリー=ルルシヴァクの母
「知らない天井……ではないか」
目を開けて飛び込んでくるのは石造りの壁とカラフルな幾何学模様が刺繍された蚊帳だった。
二度目の不思議な夢を通して完全に自分が他人の体に入ったことを自覚した。
俺はこの体の持ち主であるルルシヴァクの人格を排除しの記憶の一部を伝承した元雪国育ちのお兄さんとなった。あ、いや体は子供か。
どうも不思議な感覚だ。
この体、ルルシヴァクとしては見慣れた風景だが、精神としての元の自分は、異国情緒ある天井だと思う。
困ったことにルルシヴァクの記憶は完全ではない。
ルルシヴァクが馬鹿でものをあんまり覚えていなかった可能性もなくもない。
しかもルルシヴァクが幻覚を見ていなければ、空に巨大な岩が浮かんでいたり、村人が謎の筒から光り輝くエネルギー体を発射していた。
地球じゃない。
未来の地球かもしれないし、宇宙にある人間に似た知的生命体がすむ星という可能性もある。
少なくとも自分が知ってる地球ではない。
そしてこのぶっ飛んだ記憶の裏付けとなるのが目の前の存在だ。
謎テクノロジーによって見える外。だが窓ガラスではない。
そもそもこの部屋には窓がない。石壁だ。
というより家のとして住んでいる建造物自体に窓穴がなく代わりにぼんやりと外の様子が見える謎技術が使われている。
この謎技術はプロジェクターで壁を照らしたような感じに見えるのだが、実際にはどこからも照らしてないし、壁も発光していない。
意味がわからないが便利だからどうでもいい。窓の代わりに外が見える仕組みはあるのに建物は石造りであり、夏は暑く冬は凍えるように寒い。とんでもない欠陥住宅である。床暖房とかあっても良さそうだがない。
ON、OFFは壁を触りながら念じるだけだ。
謎だ。
もしかして人間の脳にICチップが埋め込まれて随時思考が読み取られているようなディストピアなのだろうか。
だとしたら、憑依や生まれ変わりといった自らの現象はいささかファンタジー過ぎるのではないだろうか?
家に窓がないせいで今家にいるときは明かりがないと作業ができない。
外の様子が観れる壁は光源にならない。光っているように見えるのだが周りに反射光がないことから謎技術によって外が見えるだけなのだろう。
壁に照らされているように見えているが眼球に何か埋め込まれたり、脳改造がされていて壁に触れることで自分だけ外の様子が観れるようになっているのではないか、という恐ろしいことに気づいてしまった。
それに、まだこの世界が恐るべきディストピア説に論ずるものがある。
それは見た目だ。
紫の目とか輪○眼かよ……と笑っていたがこれはもしかしてカスタムベイビーというものではないだろうか。
遺伝子操作によって自らの子供に取り入れたい特性を与え産ませるという外法であったはずだが、もうカラーコンタクトが入っていなければ、親のエゴによって幼く身体を改造された子供というわけになる。
やべえ、親か?
記憶ではとんでもないど田舎だったが、児童相談所あるかな?
さて、それについてはゆっくり考えるとしてこの家、ランプや蝋燭でもあるのかと思うばそんなものはない。
光る鉱石と光る水棲生物がライトがわりのようだ。光る鉱石は強い光を放つ。そのかわり太陽の光を当てておかないといけないとか……なんとか両親がそう言っていたのを思い出し、蓄光する鉱石ってそんなに光を放つんだっけなとは思った。
うちにはないが殺すと光る水棲生物をライトがわりに使っている家もあるらしい。……それって毎晩殺すってことだよな?
硬いベッドから降りて凝り固まった筋肉を伸ばせば体からぼきぼきとした音がしてだるけどが抜けていく感じがした。
今は何時なのか知らないが、壁に写し出された家の外の風景には青い空と閑散とした村の様子が伺えた。
子供部屋だというのに重めの木で出来た扉を開ければ、今度は酔いから覚めた父と母がいた。
「…………」
なんて言おう。おはようか?
いや、ありえない。さっき口に出してみた自分の言葉だって聞いたことのない言語だった。すると知らない国の知らない子供に憑依なりしたわけで、子供が急に異国の言語で挨拶したらおかしい。子供の戯言だと最初は放置するかもしれないが、繰り返せば気持ち悪がられて捨てられるなんてあるかもしれないだろ?
ここは無難に。
「おきたー」
「おう、お、起きたか」
「うん」
「そう……か」
何この気まずい空気。
え?この体の記憶でもルルシヴァクはあんまり活発な子供じゃなかったように感じたんだけど。なんだろう、やっぱり親だからわかっちゃうのかな?
「…………」
「…………」
「なーに二人で見つめ合っちゃって!ルーシーも早く席につきなさい。ご飯食べるから」
ご飯?お腹すいてないしなぁ。
起きたてじゃ食べる気がしないっていうか。
「お腹すいてない」
「ダメ!ダメダメ!絶対っっにダメだからね!子供は食べないとダメ!」
「え……(押しが強えなおい)。う、うん。わかったよ、やっぱ食べる」
渋々、椅子によじ登り座る。父よ、抱っこして椅子に座らしてくれてもいいじゃん?
「は、は。そうだよ!あー、なんていうか!アレイは将来、英雄になるからなぁ!英雄はいっぱい食べないとダメだぞ!アレイアみたいになるならな!」
なんの話!?
さてはコミュ障だなオメー
なんだろう、初めての子育てでうまく行ってないとか。
いやいや!俺じゃないけどこの体、5歳くらいだよ?
5年間も子育てしてこれはないよな?
まさか再婚?!
いや、早まるな。記憶上、親が変わった感じはなかった。
「アレイアってだれ?」
とりあえず聞いてみよう。
コミュ障さんには年長者としてサポートしてあげないとな。
「アレイア!アレイアはなぁ!父さんが憧れた英雄で、あれだ!俺が××をやめて×××をやり始めた……」
ちょい、ちょい待て。聞き取れないと言うか習ってない言葉使わないで!
「はいはい、わかったから。先にご飯にするよ?」
「アレイアはなぁ!すっごいカッコいいんだぞ!特に××××で××××の……ん?ここからがいいところなんだが?」
「後でいつでも話せるでしょう」
「そうか、そうだな」
アレイアね。いつもルルシヴァクのことアレイって呼ぶけど似てるな。
ああ、今の言い方だとアレイアさん(仮)は偉人か何かなんだろうね。
それで、自分の子供にお前は将来英雄になれなれと洗脳紛いの教育をしているというわけか……めんどくせぇ親だな
おい。
英雄っつうのはよ……目指すもんじゃなくて、自然となるようなものなんだぜ?
って返したい。親を論破していいことなんてないから言わないけどさ。
リビングと思しきこの部屋にはいくつも光る鉱石があった。天井からぶら下がるシャンデリア。
暗い部屋の四隅には棒状の筒の中には光る鉱石が沢山入っているようにみえる。床と合体しているタイプのテーブルには部屋の天井で見た幾何学模様の布がテーブルクロスのように被せられている。
布の隙間から見える複雑な模様が刻まれた石の台が棺に見えて仕方がないのだが気のせいだろう。
部屋の形やテーブルがわりに使っている台がピラミッドの内部のように見えるのも気のせいだ。根拠もないし、ルルシヴァクは自分が入るまで只の子供だったから『これ、テーブルじゃなくて棺じゃね?』なんて尋ねた記憶もない。
「はい、出来たよー!」
目の前にドンと置かれた皿にはカラフルな花と灰色の蛸のような生物が生きたまま入っていた。
「え……これ、なに?」
食べたことがあったかもしれないが、あまりのゲテモノ臭についつい声が出てしまった。ソースらしきものがかかっている様子はない。
蛸らしき生物の体には藁のような草で切った後を縫いました!という感じで施術した後がある。雑な縫い目の奥には明らかに蛸の中身ではない肉が。
もしかしなくて詰め物料理かな?
イメージとしては生きたイカのイカめしだと考えてほしい。
「ルシェークラよ」
る……。
え?今なんて。
「メイリー、俺これ嫌なんだけど」
本当に嫌な顔をしてフォークのような食事で皿の中で暴れる蛸のような生物を縫い止めてテーブルの奥へと押しやった。
いいぞ!俺のも頼むわ。
「ライオス……貴方ねえ。もう大人なのわかる?」
あー、そういえば、父親の名前ってライオスだったのか。普段、母が貴方としか呼ばないから全然わからなかったがライオスか。見た目通りだな!付け加えるなら迷宮でゲテモノ料理食ってそうな名前だ。
「あ?んなのわかってるけど、なんだ」
「子供もいる。もう一端の親なんだよ?それが好き嫌いしたら子供に示しがつかないでしょう?」
「いや、これは好き嫌いの問題じゃない。これは食べ物じゃないぞ。せ、せめて火を通すなり煮るなりしてくれ」
改めてみる。生きてる。内臓とかないのに動いてる。しかも皿から逃げようとしてるんだが……。
ありかなしかって言われれば無しだが、日本でも海老や蛸の踊り食いってあったからなぁ。蛸の踊り食いはさすがに脚とか切られてたけど……。
「でも、これがこの村の食文化なの。それにここにすむって決めたのは貴方でしょ!ぐちぐち言うな!」
おお、こわいこわい。
「は、ははっ。落ち着けよメイリー。そう怒るとシワが増えるぜ」
「…………」
鬼の形相で睨む母と相変わらずヘラヘラした父。もうすでに離婚しそうな空気なのですがこれは。
「わ、わー。おいしそうだなぁ」
糞っ!なんで飯食うだけで家族が空中分解しそうになるんだよ。
どう見てもライオスが悪いだろ。なんで結婚したの?こいつ見るからに駄目男感あるじゃん?
恐る恐るフォークのような食器で突き刺した蛸型生命体を持ち上げ触手を口の中へ。
蛸やイカと違って吸盤のない代わりにヌメヌメとした触手が口の中で暴れる。
うっ……暴力的な不味さだ。
口いっぱいに広がる不快な食感と苦味。
特有の生臭さと見た目のグロテスクさが二口目を食べる気を失せさてくる。
それどころか吐きそうだ。
"やめて!私に乱暴する気でしょう?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!"
あまりの不味さに一瞬気絶しかけてしょうもない言葉が思い浮かんだ。なるほど、走馬灯か。
「うん……お腹いっぱい」
「駄目よ、いい?ルーシー。これをね食べないと大人になれないの」
いいよ、大人にならなくて。
子供って気楽でいいよなぁ。
あー。一生、子供でもいい。
お酒がのないとか自由な移動が出来ないというデメリットを見ても納税義務がなかったり食費等の生活費や住居がただで使えるっていうのはでかい。あと何かやっちまっても親が責任取るし。
「ルシェークラはね、美容にもいいの」
それは俺関係ないから。
「るしぇ……ら?」
「"る・しぇー・く・ら"よ」
「ルシェークラ?」
「そうそう」
ルシェークラねぇ。聞いたことのない言葉だ。
蛸型生物の生サラダとでも呼ぼうかと思ったけど、腸詰と踊り食いを出して二で割ったようなこの料理はルシェークラの踊り詰めとでも呼べばいいだろうか。
「ルシェークラくらでもリシェークラだが知らんが俺は食わんぞ、こんなもんは料理とは言わない」
「じゃあ、一生食うな」
ママさん滅多、キレてんじゃん。
作る人の気持ちを知らないからこそ簡単にこんなのっていちゃうけど、料理って結構体力使うし、こんな風に言われたら頭にくるよなぁ。でも俺もこれは嫌だ。
「はぁ!?それとこれとは違うだろ!」
ライオスは机を叩いて立ち上がり抗議をするも、メイリーは黙ったままだ。
「なんなんだよ……たく」
お前だよ。なんなんだは。もっと静かに出来んのか?
「なー?アレイもこんなもん食べ物じゃないと思うよな?」
こっちに降るな!お前のつけた火をこっちに移すんじゃない!
ライオス……お前、本当に俺の親か?
「うん……おいしくは、ないけど」
食べ物じゃないと言うことはないんじゃないかな?と忖度した言葉を言う前に。『ほらなぁ!ほら!アレイだってこう言ってるぞ!』と調子に乗って声を上げる。駄目だこりゃあ、この場にいたら修羅場に巻き込まれそうだからさっさと家の外にでも遊びに行こう。
「えー……と、今お腹すいてないから外で食べるよ!」
外に持って行って土に埋めよう。
臭いものには蓋を……。これは仕方ない、仕方ないことなんだ。
「そう、お母さんも、お父さんに用があるから遅くまで遊んでいていいわよ?」
「うん!わかった」
「お、おい。なんのようだ?」
説教に決まってんだろ。
メイリーは食べかけの"ルシェークラの踊り詰め"をココナッツの殻のようなものに詰めて藁で編んだ紐のようなもので結んだ。
なるほど、あれなら生きていても出てこないな。
「あんまり遠くに行くなよ?何があるかわからないからな」
「わかったよ」
メイリーから受け取ったココナッツのような容器を持って外へ繋がるドアへ向かった。
靴がある。この体の記憶では村人は靴を履かないはずだが……。
まあ、何を踏むかわからないし靴は履いていくか!
悪夢の食事から逃げ出した俺は、初めての外へ踏み出した。
おまけ・生物の設定
【ルシェークラ】
ルシェークラは作品オリジナルの生物。命名に意味はない(現代地球の言語との関連性はない)。
灰色の表肌を持ち吸盤のない触手を12本生やす。形状は蛸によく似ており頭のような部分には内臓が詰まっている。ルシェークラは目と目の間の神経に包丁を刺しても死なない。なので内臓を抜いて代わりに具材を詰める料理が生まれた。
ルシェークラの踊り詰め(仮)は、村では特別な日に食べられるらしいが……。
ルシェークラのヌルヌルした食感や独特の生臭さ、えぐみは慣れないときついが慣れるとハマる。らしい。
特に酒に合うらしい。
あと、お肌がツルツルになるらしい。
文章内のネタ・パロディ
【知らない天井……ではないな】
→知らない天井だ。
アニメ漫画ラノベで主人公が目覚める時のお決まりのセリフ。
【ライオスって迷宮でゲテモノ料理食ってそう】
→ライオス・トーデン
漫画ダンジョン飯の主人公。ダンジョンに潜むモンスターを食べることから。
【おお、こわいこわい】
→きめえまるのセリフ
ゆっくりと呼ばれる頭しかない一頭身キャラクターのセリフ。きめえまるは東方project関連の二次?か三次創作物キャラ。
【さてはコミュ障だなオメー】
→さてはアンチだなオメー
ポプテピピックの一コマより
【「やめて!私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」】
→私立トレミー学園 炎のKAINYU転校生 セカンドシーズンより。やめて!私にryのセリフは改変なし。
ひとこと
雑談はありません。
次回は外へ探索へ!
評価ありがとうございます^ ^