センスのない名前
ぼくはせんれいをうけた。
ぼくは強いしきになった。
たくさん、いい霊がおしえてくれた。
ぼくはかえろうとした。
くろいばけものがぼくを食べた。
ぼくはルルシヴァク。
パパとママが好き。
パパとママは村のそとからきたけどぼくは村でうまれた。
ぼくはしょうらい、たくさんまほうを覚えてまほうつかいになるんだ。
ぼくは……ん?あれ?違うよ。
【俺がルルシヴァクだ。】
◇
「――ん?」
長い夢を見た気がした。
怪物が人間を食べる夢だ。
"見慣れた"天井だ。
薄い布団をめくって立ち上がれば、部屋には粗末なベッドがあった。
窓のない木の部屋にはベッドと丸椅子、それから机と、その上にコップがある。
中に入った液体をぐびぐびと飲むとイガイガしていた喉が少し治った気がした。
身体は小さい。机の横に立てかけられた鏡には見覚えのある顔が写っていた。
夢でみた……いや、あれは夢じゃなかったのか?
その顔は幼かった。5歳か6歳くらいの子供だった。中性的な見た目から男か女か一目では判断がつかないだろうが、その姿が少し成長しただろう顔は見覚えがあった。
夢の中で怪物になった俺が何かを吸い取った人間だった。
手を上にあげれば鏡に映った少年も同じ動きをした。
「餓鬼になってやがる……」
見た目からは想像もつかない暴力的な言葉が出たがまあいいとりあえず声は出せた。
準備運動をするように手足を動かしてみるが何にも違和感はない。
自分の姿が変わっていたらもう少し驚くような人間だった気がしたが、どうも自分がこの姿だということが当たり前のことに感じていた。
デジャヴ。怪物になった夢でも怪物であることに納得していた。
要は精神は肉体に引きずられるという話だろう。ある日目覚めたら、女になっていて"私(俺)達、入れ替わってる!?"とは俺はならなさそうだ。
まあ、こういうこともあるかと納得して受け入れてしまいそうだ。
夢が本当かただの夢か、俺には判断がつかないがこの状況は少なくともおかしい。
洗礼だかなんだか知らないが、冷静沈着に判断し欲望を抑えて行動する子供というのは実に不気味だ。
あの夢のように身体から記憶を奪って憑依したのか、それとも輪廻転生というやつかわからないが、とりあえずはこの身体の持つ記憶に頼りながら子供らしい子供を演じて過ごしていこう。
◇Ⅱ
部屋にはドアがあった。
金属じゃなあしドアノブもついている。
少し押してみると完全に閉まっていなかったようで簡単に開いた。
扉の向こうには二人の人間がいた。
男と女だ。本も武器はない。
鎧をきた人間はいない。
「あら、ルーシー。もう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよママ」
美しい女性が話しかけできた。すらっとした身体、長い足、シミひとつない肌とスッキリした顔。モデルといわれても違和感のないその女性に見覚えがあった。
見覚えがある、ないというより彼女が母親だとこの身体の記憶から理解した。
名前はメアリーというらしい。自分をルーシーと読んでいたがそれは敬称……ようはニックネームだ。
名前はルルシヴァクという。
変な名前だと思う。
母も父もそれは思っているらしく母はルーシー、父はアレイと呼ぶ。
父だがイケメンではない。
母は美人だが父は普通の若者といった感じだ。
そもそも二人ともだいぶ若い。
20前半くらいに見えるがそういう人種なのか若作りなのか……もしかして良い化粧品でも使っているのだろうか。
少し肌寒いというのに父は半袖に長ズボンを履いており、半袖からは暑苦しい筋肉が見えていた。
母は金髪青目、父は茶髪緑目。一番欧米諸国あたりにいる組み合わせである。
金髪なのは血を継いでいるなとは思ったが鏡には映って紫色の眼は果たしてこんな眼の色の人間がいるのだろうか?
ちなみに輪○眼ではなかった。ちゃんと白目もあった。どうやら最強のNINJYAにはなれないらしい。
父、ライオスはルルシヴァクのことをアレイと呼ぶ。それはこの村に移り住んだ父が子供の名前を村で名付けるという風習を知らずにつけた名前だ。
ルルシヴァクなる名前はカッコ悪いらしく意地でもアレイと呼ぶ。
俺からしてみればアレイもそこまでかっこよくないが、ルルシヴァクはどうかと思う。
つけた人のセンスを疑う妙な名前だと思う。
人につける名前じゃない。馬とか……あとは、いや馬にもないわ。
「パパ、それなあに?」
喉が渇いて何か飲みたかった俺はライオスが飲んでいたものが気になった。
「あん?あー、これは酒だ。美味えぞ?ちょっと飲んでみるか?」
ほう、いいね。
いや、5、6歳の子供に酒を薦める親ってどうよ。
そう思っているとメアリーがライオスを睨みつけた。
ライオスは酒を持ったまま目線をそらすと弁明した。
「あ……うん、そうだな。これは大人の飲み物だからなぁ……はっははは!アレイにはまだ早いっつうか、そう、大人になったらな、大人に」
下手くそか。
「えー、喉乾いたなー。僕も飲みたいよ」
「あら?あなたルーシーの部屋に飲み物おいた?まさか」
めっちゃ疑われてるし……。普段からダメ親父なのか?
「いやいや!置いたよ!ちゃんとおいた……俺の記憶が正しければ、だが」
コップの中に入っていたやつがなんだったかわからないけど、あったことにはあったな。
「飲んじゃった」
「ほら、あったし?」
ほらな?みたいに俺をみた。
少し自慢気にしてるのが馬鹿みたいだ。
中身が子供じゃないというアドバンテージがあるが、父が普段からこんな調子なのかと考えると不安になった。
「当たり前です」
メイリーは台所から水の入ったコップを持ってくると飲ませてくれた。
別に眠くはなかったが混在する記憶を整理するためもう一度寝ておくことにした。
◇Ⅲ
またあの暗い場所にいた。
今度は自らの元の人間の体と夢で化け物になった時の体があった。
他に人はいない。
言葉にし難いスライムのようなグチョグチョとした不形態の物体が蠢いているというのに不思議と不快感はなかった。
「あなたは誰ですか?」
それが自分ではないとは感じながらも夢のように食べられることはないとわかった。
誰だかわからないし、言葉が通じるようには見えないが、意思の疎通は出来るような気がした。
【…………】
金属を研磨したような不快な音を立てて激しく動く化け物。何かを反応したようだがあいにく人間以外の生物の外来語はわからない。
「仲良くしましょう、ね!」
仲良くという概念があるかわからなかったが、ちょっと可愛く見えてきてまた会いたいと思ったからこそ言った言葉だった。
握手のように手を伸ばすと、化け物も触手のようなものを生やして腕に絡めてきた。
「また今度会いましょう」
俺がそういうと世界はぐにゃりと歪んで、夢から覚めるような気がした。
雑談
作者は……ああ、作者というのは私なんですけどね。
えー、作者はですね。宗教学を独学で勉強してましてその延長上としてこの作品を書くことにしたんですよ。
で、ですよ。身近な人にいわゆるなろうテンプレートな都会で働く平社員みたいな人間がいなくて参考にならなかったので親戚から聞いた愚痴を元に主人公像を作ってみたんですけど、結構気に入ってしまいまして。どうやって殺すか悩みました。トラックに跳ねられるなんて陳腐な死に方はやらせたくなかったんです。
豪雪地帯に住んでいる設定で、田舎でスローライフ!とか言って引っ越してくる都会人をみてばっかじゃねえの?と思っているタイプの人間です。
雪の怖さを知っているなか、雪に埋まって死ぬか。
家が雪で潰されて死ぬか。そんな案を考えていたところ、昔、見知らぬクソガキに側溝に突き落とされたのを思い出してその時の怒りや憎しみを晴らすように書きなぐってみました。
いやぁ、経験が生きたってのはこういうことなんですね。
(笑)
以上
次回は第三者視点でお送りします




