第5話~咲と愛の放課後
第5話です。今回で春前編は終わりです!
次回は原稿がもう少したまり次第投稿します! のでブクマのほうお願いします。
「咲ちゃん、一緒に帰ろうー!」
さらさらとした黒髪が覗き込んできた。
「愛……。うん、ちょっと待って」
「うん、いーよ」
愛は、よっこらしょと隣の空いている席に腰を下ろした。
七瀬愛。中学で初めて会ってからずっと一緒にいる。あまり喋るのが得意ではない私と違ってニコニコしてて誰からでも好かれてる。と私は思ってる。
「咲ちゃんさー、最近なんか変だけど、なんかあった?」
「ふぇ……?」
爪楊枝で心臓をつつかれたみたいに、ドキッとする。
「入学式らへんからだったっけな、心ここにあらず的な?」
「いつもと、変わらないよ」
「うっそだぁー!」
あの事件以来、自分では普通の顔をして過ごしていると思っていたけれど、勘のいい愛には気持ちの変化がばれていたようだ。
……ちなみに、入学式の日あいつらに襲われたということを愛には言っていない。別にわざと隠していたわけでもなく、ただ言うタイミングがなかっただけだけど。
「もしかして、おんなじクラスに好きな人ができたとか!?」
「好きな人かぁ……」
「え、えぇー!?」
愛は大きな声を出して文字通り仰天した。
「ど、どうしたのさ」
「いや冗談で言ったんだけど……咲ちゃん好きな人できたの?」
「好きな人」という言葉をもう一度聞いてはっとする。
「い、いや好きな人というか、探してる人というか……」
「なにそれ! めっちゃ気になるんですけど!」
あー。っと口を滑らせてしまったことを悔やむ。
「いやさー中学の時色々あったじゃん。休み期間に克服したのかなーなんて……」
「それに関しては全然。話してるのも愛だけだし」
それとあの人……。
「あ、またあの顔になってる」
「別にふつーの顔でしょ」
「あー咲ちゃんなんか隠してるなー!」
おとなしく座ったと思ったら、猫みたいにじゃれついてきた。
(これはきりがないな。いい機会だしあのことも言うかー)
「愛、帰りあのカフェ行ってみよっか」
「あのカフェって駅前にできた?」
「そう。そこで教えてあげる」
「え、咲ちゃんの好きな人?」
「好きな人じゃなくて、入学式の話」
わかりやすく愛の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。
咲は机上のものを鞄に流し込んで椅子をしまった。
カランコロンと心地のいいベルの音が鳴り響く。
音色をくぐって中に入ると、落ち着いた曲調のBGMとともに、木の色で統一されたレトロチックが広がった。
「わぁ……。綺麗だね咲ちゃん」
感動を露わにした愛のほうを見てみると、琥珀色の瞳が小躍りしていた。
とか言っている私も店内の雰囲気に完全にわくわくしているけれど。
「あっちがカウンターっぽいよ。愛どれにする?」
カウンターの上にあるメニューボードの前に来たけど、「どれにしようかなー。こっちもいいなぁー」と愛は一生懸命に悩んでいる様子だ。
「咲ちゃんもう決まった?」
「んーブラックストロベリーフラペチーノにする」
「じゃあ私はホワイトのほうにしよっと」
お互い会計を済ませて奥のほうの席に着く。
頼んだ商品を待っている間、手元のメニュー表を二人で見て「あーこういうのもあったんだー。次はこれ頼もうかな」などとお決まりのルーティーンをしていた。
「こちらがブラックストロベリーフラペチーノで、こちらがホワイトストロベリーフラペチーノです」
数分経ってから、店員さんが商品を運んできた。
「わぁ、おいしそー! あとで一口飲ませてね」
「愛のもちょうだいね」
いただきますをしてフラペチーノを口に入れる。
冷たくて甘いホワイトクリームとシャリシャリした冷凍のイチゴがめちゃめちゃに美味しい。
「んーおいしっ! ここのお店は正解だねぇ」
「そーだね、今までの中でもトップクラスかも」
愛と仲良くなったころから喫茶店巡りをしてきて、いろいろな甘い飲み物を飲んできたけど、このフラペチーノは本当に美味しい。
愛のも一口貰ったけれど、ホワイトとブラック、どっちも質が高く私としても大満足だ。
「さて本題ですが、入学式の話ってどういうことですかお嬢さん」
フラペチーノがなくなりかけた頃、愛はかしこまった様子で今回の話を切り出した。
「入学式の日、女子高生が襲われたって言う話」
「あーそれうちの高校の生徒っていうけどわからないし、助けた人もわからないんだよね」
「襲われたの、私」
愛はわかりやすく目と口を真ん丸にした。
「どうしてその日に言ってくれなかったの」
「いやいうタイミングがなくて、それとその日は頭がいっぱいいっぱいになっちゃって」
「そっか、そうだよね。怖い思いしたらそうなるもんね。なにか痛めたとことかないの?」
「私は大丈夫だったんだけど、助けてくれた人が右腕刺されちゃって」
ひぇぇ、と愛は顔をしかめた。
「それでその人は?」
「パトカーに乗って病院に行っちゃって。それっきり」
「そうなんだ。でも咲ちゃんが無事で本当に良かった。どうりで乳が牛木らへんからおかしいと思ってたんだよー」
「うん。でも……」
私は大丈夫でもあの時、彼の腕からは結構な血が出ていた。
何も関係のない人を巻き込んでケガまでさせてしまったことの罪悪感と、自分は無事だったことの安心感。こんな感情がずっと頭の中でぐるぐる回っている。
「助けてくれた男の人ってどんな感じの人だったの?」
「えっとね、制服は鷹野宮高校の制服で身長はちょっと大きかったな。それと……」
「それと?」
「目つきが悪くて、本当に格好良かった」
一番印象に残っているのが、不審者を蹴っ飛ばした時の彼のぎらついた目だ。
あの瞬間だけ前髪がめくれて、彼の目に見とれてしまった。
「えぇー、惚れた?」
「いや本当にわかんない」
今まで男の子を好きになったことがない。というかむしろ距離を取っていた側の人間だから恋愛なんて本当にわからない。
そもそも付き合うって何。カップルって何するのレベルに恋愛には疎い。
「咲ちゃんて、ちょっと変だよね」
「変ってなにさ」
「いやー別に」
今さら男の子に話しかけるというのは自分にとっては高度なことだが、ぜひ彼にお礼をしたい。
また会って「ありがとうございました」と伝えたい。
「咲ちゃんさ、その人見つけようよ」
「え……」
「だって鷹野宮高校の人でそのくらい手掛かりがあるんだもん。見つかるって」
「そうだね。見つけよう」
彼の名前はなんて言うんだろう、いまなにしてるんだろう。
そんな思いを浮かべながらフラペチーノの最後の一口を飲み干した。
お読みいただきありがとうございます。
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