第2話~兆しの崩壊
第2話です。更新は毎日10:00時、22:00時にしようかなと思っております。
携帯の地図アプリをうまく使いながら学校へと向かう。
(この道をずっと行けば着くはずだが……あ)
少し遠くに紫色の屋根のどでかい建物が見える。流石金持ち高校といったところか。
歩道に立つ看板にも「市立鷹野宮高等学校、直進」と意味を示すものがあった。
時間を確認すると集合15分前。これなら少し余裕をもって着きそうだ。
……と思った瞬間、背後で女子の悲鳴が聞こえた。
「助け……! もう! やめてください!」
「うっせーなぁ! 早く車に乗れよ!」
「そうだぜ嬢ちゃん、いいとこ連れて行ってやるからよぉ!」
制服を着た金髪の女子がいかにもガラの悪い男二人組に絡まれている。
(うわぁ、最悪だな……)
もちろんあの女子も気の毒だが、一番は飛び火を食らった俺だ。
これ、絶対助けなきゃいけないやつじゃん。
「助けて……! 誰か!」
俺は何も見ていない。何も聞こえない。あ、急がないと集合時間に遅れる……。
--壮馬君、ごめんね、僕のせいで。
「……! はぁ、今日は色んなものを思い出すな」
制服の上着と鞄を足元において反転し、アスファルトを蹴る。
「おい、そこの不審者、どけ」
いまから蹴りますよ、と一応宣告しておく。
「はぁ? てめぇ何言ってん……ぐぁぁ!」
おなかを狙ったボレーシュートがクリティカルヒットしたのか、想像以上に吹っ飛んでいった。
「おい、兄貴に何してんだよ!」
顔面に飛んできた拳を流し、その腕をつかんで柵の向こうに放り投げる。真正面から突っ込んでくるバカはこうやって処理すればいいって院長に教わった。
「ぐぁぁぁ!」
久々に動かしたのもあって足を挫いたっぽい。とりあえずいったん呼吸を整えて携帯を取り出す。そして1、1、0と。
「もしもし警察の方ですか。今鷹野宮高校前で女子高生が不審者二名に絡まれてました。……ああ、動けなくしておりますんで。それじゃあ待ってま」
「危ない!」
右腕に雷が落ちたかのような痛みが激震する。
「ひゃっひゃあ! 馬鹿野郎め、油断するからこうなるん……ぐぁぁ!」
男を突き飛ばし、刃物を握っている右手を思いっきり蹴っ飛ばす。
そしてすぐさま頸動脈あたりを命が大丈夫な程度に手で峰打ちする。失神して倒れたところを抱え、息をしているのを確認した。
「大丈夫そうだな……うっ」
落ちた携帯を拾い、電話を確認するが、電話は切れてしまっていた。
それよりも右腕がじりじりと熱い。患部を触ってみると生温かく、どろどろとした感触が手のひらを包んだ。……血だ。
(油断した。これ、もう少し反応が遅かったら終わってたな)
にしても結構血が出ちゃってるな……あ、あれ、力が入んねぇ。
膝から抵抗なしに崩れ落ちる。
「あ、あの、大丈夫ですか」
「ああ、別に」
でもこの血まみれの状態では高校に入ること、いや近づくことすら不可能だ。
せっかく買ってもらった制服を汚すわけにもいかないし。
(仕方がないが、一回家に帰って病院行くか)
鞄と制服を取りに一度起き上がる。
「どこに行くんですか」
「どこって病院だけど」
「いやそうではなくて……」
何を言いたいんだこいつは。てか、俺が不審者相手してる間に逃げればよかったのに。
「もう予鈴が鳴るころだろ。早く行けよ」
パトカーのサイレンも近づいてきた。よかった。電話の最中に判断してくれた警察官が手配してくれたんだろう。
「行けるわけないです。もとはと言えば私が!」
「君たち! ケガはないか。君! かなり血が出てるじゃないか。おい、この子を病院に連れてってくれ!」
そう言われて荷物を持ってもらい、そそくさとパトカーのほうに向かう。あ、そういえば。
「すんません。そいつ、鷹野宮高校まで乗せてってくれませんか? 実は今日入学式なんすよね」
「ああ、そういえば今日は入学式だな。それじゃあすぐに送り届けるよ」
まだなんか言いかけていたが、金髪女子は別のパトカーに連れられて坂道を下って行った。
(はあ、やっぱ人と関わるとろくなことがねぇな)
応急措置をしてもらった後、荷物とともにパトカーの後部座席に乗せられた。
「そういえば、君も鷹野宮高校の入学式なんじゃないの?」
「あー、俺は足も手も痛いから遠慮しておきます」
「そうかそうか、それじゃあ君が診察を受けている間、僕が学校のほうに事情を説明しておくよ」
「すみません、ありがとうございます」
パトカーが動いて現場から離れる。
本当にどうなってんだ。入学式の日に腕刺されて病院行くとか。しかも足も挫くし。
これだから人と関わるとろくなことがない。昔から人と関わってよかったことが一つもない。
「実は君たちを見つけたとき、『君』が悪い人かと思ったよ」
「あー『目つき』が悪いからですか」
警察の人は笑って「冗談だよ」と流した。
朝、眼鏡が必要といった理由はこれだ。俺は生まれつき目つきがすこぶる悪い。だから好き好んで近寄ってくるやつもそんなにいないし、怖がられることが多い。
ーーあの、大丈夫ですか?
にしても久しぶりに院長と美智子さん以外の人と話したな。
……話したというか一方的に流しただけだけど。
坂を下って鷹野宮高校がだんだんと遠のいていく。
(まぁ、とりあえず、制服脱いでおいてよかったなぁ。)
お読みいただきありがとうございます。1話の後書きに載せればよかったんですがここで。
相変わらず愛も変わらず、3年も前から読者でいてくれてありがとうございます。
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