8話 ボク達の秘密
朝日が差し込むひと時。
お店は今日も早くから開けていて、いつもの7人が今日は朝から店に来ている。
あれから1週間が経ち、レッドデーモンの侵略戦争の興奮も、ようやく落ち着きを取り戻していた。
「いらっしゃいませ!」
ご主人は、相変わらず客の対応で大忙し。
「アリアちゃん、さっき言ってた腰痛に効くもの、あるかしら?」
「おば様!ありますよ!こちらに用意してます!」
いつものように、今朝も隣のおばちゃんと挨拶した時、そんな話をしてたっけ。
おばちゃんは仕事してないからって、取りに来る事になったんだったな。
ご主人が、カウンターの下の引き出しから、小瓶のセットを取り出す。
小さめの箱に、小指くらいの小瓶が3本セットになっていた。
「これかい?」
「ええ。これです」
見ても、用法とかがわからない顔してるね。
「これは、毎晩寝る前に1本ずつ飲んでもらうと、寝ている間に全身に行き渡り、やがて体の中で損傷している所などに集まって、修復や補強をしてくれる薬です!」
「へえ、そんな凄い薬なのかい」
「腰痛だと、背骨の腰椎の軟骨がすり減るとか…」
あ〜あ、またご主人は。
そんな事を説明しても、人間界にはまだその知識が無いから、意味無いって言ってるのに。
「そ、そう。あたしにはよくわからないけど、アリアちゃんが言うなら、効くんでしょうね」
「もちろんです!」
「じゃあ、これを頂くわ!おいくら?」
おばちゃんもニコニコじゃん。
「これ、実はあたしの考案品で、商品認定は取れてる完成品なんですけど、今はまだ販売許可の手続きが長引いてて、商品としては売れないんです。だから差し上げます!」
そう。
毒物などの無い飲食物なら、好きな様に開発したものを自由に売れるけど、毒物や薬品の扱いには商品認定と、その商品の販売許可が国から降りないと売れないんだよね。
人間の国のくせに、めんどくさいシステム作ってくれちゃって。
「あら、そうなの。でも、アリアちゃんが間違いないって言うなら、安心ね?」
「はい!」
「じゃあ、頂くわ!今度、何かお礼させてね!?」
「ありがとうございます!楽しみにしてます!」
おばちゃんは、笑顔で手を振って帰っていった。
「なんか、アリアさんすげーなー」
「なにキール?アリアさんに惚れちゃったの?」
「バーカ、ネイス、そんなワケねーだろ?」
「でも、ほんと凄いよね。どう見ても私達と同じくらいの歳に見えるから、歳上って言ってもそんなに差は無いでしょ?」
「そう!そこなんだよ!それなのに、相手を不快にさせない、しっかりした対応とかできて、接客は完璧じゃね?」
「じ、実は前から別の街で、こ、こういう商売、…してたのかな…?」
キール達の話にハンスが突然交じる。
コイツ、普段無口なんだから、いきなり喋りだしたら…。
「びっくりした〜!」
ま、そうなるよね。
「ハ、ハンスさん、でしたよね?やっぱりハンスさんも興味あります?」
「ハ、ハンスで良いよ…。僕も君達と同い年くらいなんだ」
「だって、ハンスさん、ランク2じゃ…」
「僕だけじゃ成れなかったよ。僕一人の実力なんて、君達よりももっと下さ…」
すげーネガティブ。
陰気なのは雰囲気だけじゃないね。
「はい、お待たせ!ローズベルガモットはネイス?」
「そうそう!あたしこれ気に入っちゃったのよ〜!」
「ありがと!オレンジミントはシャンティね?」
「は、はい!ありがとです!」
「こちらこそだよ!ゆっくりしていってね!」
「もちろん!」
テーブル席は今日も賑やかだ。
殆ど毎日の様に来るいつもの7人は、早くもご主人と仲良くなってる。
ハンスなんて、この前はパーティメンバーを紹介しに連れてきてたもんね。
キール達4人パーティは、女子二人が遅れてきたけど、もう4人揃ってるから、飲み物飲んだら狩りに行くらしい。
この前のレッドデーモン戦で4人とも重症だったから、ヒールで怪我自体は治せても、大事をとってしばらくは簡単な狩りだけにするんだって。
「あ、ぼ、僕、そろそろ行かなきゃ…」
ハンスは、今日はまた一人で来たから、パーティと合流して簡単なクエスト依頼を受けてるらしい。
「今度またパーティメンバー連れてきてね!」
「は、はい、…じゃ…」
ハンスが小さく手を振って出ていく。
それにしても、あのハンスが、魔導師のくせに超肉弾戦をしてたとは。
ギャツプありランキング1位は間違いなくアイツだよ。
ご主人は、ハンスを見送った後、カウンターの奥まで来て、切らした商品の仕入れをチェックし始めた。
「ご主人…」
「モス、あなたもあたしの事アリアって呼んで良いって言ったでしょ?」
あ、そうだった。
「ア、アリアはいつまでこんな事やってるの?」
「いつまでって?」
「いや、言葉のまんまでしょ」
「ずーっと、だよ」
この娘は何を言ってんの…。
「ずーっとって、そんな訳にいかないでしょ」
「何で?」
『何で?』じゃないでしょ。
「ボクら魔獣は、魂の呪詛によって、盟約されればその盟主についていく事が定められたものだから、例え王でも、ボクみたいに盟約されれば国に居なくても当たり前だけど、アリアは違うじゃん?」
「ああ、その事か」
「いや、『その事か』じゃなくて…!」
言いかけたボクの口に手を当てられた。
「大きい声出さないでくれる?」
「ゴメン」
「ま、元々あたしは、そんなに好きじゃなかったのよ」
「え?」
ボクはアリアの言葉の意味が、すぐにはわからなかった。