6話 赤の魔王軍
ーーーー西門ーーーー
「あとどれくらいだ!?」
「もう間もなく、あの丘から姿が見えるはずです!!」
「ようし!皆!準備は良いか!?」
街の警護兵達が、開戦の音頭をとる。
集まった冒険者は概ね130名前後。
街の警護兵は300。
合わせても500も満たない兵力。
対して、敵のレッドデーモン軍は、少なく見積もっても5000。
明らかに数では負けてるけど、武力としては、日々魔物達と戦って生き延びている街側の冒険者は、少数同士の戦いなら一人で数匹倒すことができるだろう。
でも、こんな軍隊の隊列戦闘では、一対一や少数戦闘の様に、まともに戦う事などできない。
それこそ10倍以上もの数の差があれば、こちら一人に対して、敵は同時に10人以上で襲いかかる事ができるんだ。
これは、開戦したらすぐに助けるべきかなぁ?
「間に合った!」
「これからみたいだな!」
「キール、ルーバス、シャンティ、今の内に補助魔法、かけとくよ!?」
「あ、ありがとう、ネイス…」
「サンキュー!」
「まあでも、俺達にできるだけの事はやってやろうぜ!」
さっきの4人組、あのちょっと元気なお嬢ちゃんがリーダーなのか。
オレオレ君が引っ張って振り回してるのかと思ったら。
「みんなーっ!どこだーっ!?」
あ、あの無口のボクちゃん。
仲間を探してるみたいだね。
だけど、あれでランク2って、よくなれたなぁ。
どんな戦い方するのか、ちょっと見てみたい気がする。
「おーい、ハンス!こっちだ!」
お?
あれがボクちゃんのお仲間かい?
「ランディ!セリア!リル!」
「ハンス遅いよ〜!」
「ごご、ゴメン!」
「ハンス、補助魔法かけるから、ちょっと止まって!」
「あ、ああ、頼むリル。…で、グリッドは?」
「宿の皆の武器を取りに行ってる。街を散策するのに邪魔だから、大きい武器とかは置いてきただろ?」
「あ、そ、そうか…」
「とりあえずは短剣とか、小型のステッキとかは持ってるけど、本気で戦うならあっちの武器じゃないとな!」
「…そ、そうだね…」
おいおい。
仲間の顔を見たら、また陰気なボクちゃんに戻っちゃったじゃん。
さっきまでの気合いはどうしたのよ?
「来たッ!!!」
前衛の警護兵が声をあげた!
ボクもその声に反応して、西側の丘の上に振り向く。
あれ?
5千くらい居るんじゃなかったの?
最初に丘の上に現れたのは、どう見ても千も満たない数だった。
これなら、ボクが出る幕も無いね。
「総員、隊列を組めぇッ!!」
警護兵は、長官らしい人物の号令に隊列を揃える。
「俺達も、警護兵に習って整列だ!!!」
警護兵の左右に、二手に別れた冒険者達。
中央、右翼、左翼の3隊列。
こちらがキチンと整列する前に、敵の軍は雄叫びをあげて動き出した!
「クソッ!!アイツら礼儀ってモンを無視しやがって!」
「長官!魔王軍に人間の礼儀を教えたって、ヤツらはバカで無能な飢えたケダモノですから、理解されませんよ!」
おいおい、言ってくれるなぁ、たかだか警護兵のお兄ちゃん!?
やっぱやーめた!
こんな下衆共を助けてやる義理なんて、元々無かったんだ。
ボクは知ーらない!
「いくぞおおぉぉーーーッ!!!総員!突撃いいぃぃぃぃーーーッッ!!!!」
真上へ振り上げた長官の剣が、前方へ倒れて敵軍を指すと、おおぉぉーーッ!!という怒号にも似た掛け声と共に、警護兵が走り出す!
まだそれほど距離が縮まらない所から、魔王軍の魔法が飛ぶ!
それに反撃する様に、人間側からも弓や魔法で応戦した!
両端から、破裂音やら悲鳴やらが巻き起こる!
ついに、互いの前線がかち合った!!
金属の衝撃!
突き刺さる鈍い音!
それらが重なり、空気を揺らす!
あれ?
アイツは…?
身の丈に合わない程の大剣を振り回す男。
その近くでは、法衣にデカいモーニングスター。
更には、魔導師服を着て、金属製のメイスステッキでタコ殴りしているヤツまで。
あの5人組…
ハンスのパーティだ!
ハンス、あの内気で陰気なボクちゃんが、魔導師なのに超肉弾戦で戦ってる!?
5人が5人とも、そのギャツプや規格外な戦闘で、周りの味方達をも驚かせていた!
キール達4人組は…と。
ああ、ハンス達と同じ右翼みたいだけど、こっちはランク取り立てってのもあって、基本に忠実な安定した戦いぶりだね。
そんな事を思っていると。
西の丘の方から黒いオーラが辺りに広がる!
…ん?
再び丘の上に視線を移すと、そこには、真っ赤な鎧を着込んだ一回り大きな魔人が立っていた。
「あ、あれは…!?」
警護兵の長官が、どうやらその存在に気付いたらしい。
「レ…、レッドデーモン…!!!」
ここから見ても判るくらい、見開かれた長官の目には、明らかな恐怖が宿っていた。