5話 困った時の看板猫
アリアファーマは、昨日までとは一転して、今は店内に客が数名居る。
4名掛けのテーブルが3つ、全てに客が着いていた。
さっきボクが連れてきた7人がテーブル2つを。
そして最後の1つは、その7人に囲まれた時に、他にも4・5人居た中で、この店の事を存在だけ知っていた人が、別の知人を連れて来たんだ。
ボクはご主人に凄く褒められて、カウンターでうたた寝してる。
「ここ、お洒落だし、凄く良いよね!」
「保存食的な健康食やハーブ菓子なんかをイートインできるし!」
「ハーブティーやコーヒーもちゃんとあるし!」
「ポーション系を薄めてフルーツドリンクと合わせたオリジナルのエナジードリンクも飲めるし!」
「なんか、オーガニックカフェみたい!」
客の反応は上々みたいだね。
「良かったら、コレ、あたしが考案したハーブ入りのビスケットです!」
「え!?良いんですか!?」
「うわぁ!美味しそう!」
ご主人も、この街に来てから今までにないくらい、嬉しそうだ。
なんだかんだ言っても、ボクはご主人のこういう顔、好きなんだよなぁ。
ボクまで嬉しくなっちゃうよ。
でも、そんな和やかな空気は、長くは続かなかった。
バタンッ!!
カラカランッ!!
激しく入り口の扉が開く!
「この中で、ランク持ちの冒険者、居ないか!?」
「な、なんだ!?」
「なになにっ!?」
突然飛び込んできた男の言葉に、店内は騒然とする!
「な、何があったんですか!?」
ご主人も慌てて男に尋ねた!
「この街に、レッドデーモンの一軍が向かってるって、さっきギルドに来た冒険者から報せがあったんだ!!」
「ええっ!!?」
「何だってッ!?」
…ん?
"レッド"デーモン…?
レッドデーモンって、あの…?
店内の客達は、椅子に座っていた者達も一斉に立ち上がって、皆の重たい空気が事の深刻さを物語っていた。
「だから、ランク持ちの冒険者が居たら、この街の防衛に手を貸してほしい!」
「お、おれ、まだランク取り立ての1だけど…」
「あ、お、俺もコイツの仲間で、パーティでランククエストクリアしたんで…」
「あ、あたしも同じ…」
「私も、…私もパーティメンバーです!」
4人パーティで、ランク取り立ての若者たちか。
「ぼ、僕は!!」
お?
さっきまで完全無口で付いてきた坊やじゃん。
「僕は、実はこれでもランク2です!」
「おお!?」
店内がどよめく。
「きっと…!きっと仲間達は!ほ、他の所で召集に応じてるだろうから…!」
「あ、ありがとう!連携のとれる仲間が居ないと心細いし、命を落とす可能性だって高まるこの状況で、君の勇気にまずは感謝したい!」
「い、いえ…」
内気なぼくちゃんが、随分と勇気を振り絞ったもんだね。
「他には、他には居ないか!?」
「あ、あたしは、まだランクには手が届いてなくて…」
「でも、私達は二人で結構色んなモンスターを倒してます!だから、ランクは無くても後方支援ならできます!」
「いや、むしろそんなに有能なら、尚更無駄に危険な死地へ連れてはいけない。これは軍を相手にする戦争だ。ランクが無いなら、無駄に命を落とす必要は無いんだ!その命、未来のために大切にしてくれ!」
「でも…!!」
弱い人間風情は、こうでもして数を揃えないと何もできない。
でも、なんだろうね。
このボクでも、ちょっとは心を動かされそうだったよ。
だ、け、ど。
このボクが人間風情に手を貸す義理もない。
…と、思っていたのに…
「モス。あたしの大事なお客さんがこの世から居なくなっちゃう」
…はあ。
「やってくれるわよね!?」
耳元で内緒話してるつもりかもしれないけど、そんなに語気を強めたら誰かに聞こえちゃうよ?
「店主さん?何か言いましたか?」
ほら、やっぱり。
ボクの言った通りだよ。
「い、いえ、何でも無いです!」
さて、めんどくさい事になっちゃったな。
「わかるわね?頼むわよ、モス!」
「へいへい。その代わり、もうボクのこと、あまり怒らないでね?」
「わかった、約束するわ」
珍しくご主人がボクの頭を撫でる。
こりゃボクも言う事聞くしかないなぁ。
「では、おれは他の場所にもランク持ちを探しに行くから、協力してくれる冒険者は、街の西門に集まってくれ!それ以外は街の東側へ避難を!」
「はい!」
「わかりました!」
「了解!」
気合いを込めた声は、高く響いて小さな店内を満たした。
駆け込んできた男が踵を返し、店の扉を開くと、ボクはゾロゾロと外へ向かう足の間をすり抜けて、店の外へ出たのだった。