盃の突然 割れる日
この世界で
龍族だけは、無限の時空に取り残されていた。
「不死は、罰である」
龍をつくった、誰かが残した言葉だ。
死の欲に動かされる、最長戦略譚になります。
ここは、地上666階。
無限丘にそびえ立つ「ケシズミ塔」屋上。
星が煌く展望フロアでは、一頭の龍が佇んでいた。
鱗は、銀で象られ。その眼は、炎の如く紅く熱を帯びている。
幾度となく、研ぎ澄まされたであろう、その眼光にすら、
龍は、慈愛に似た面立ちを浮かべていた。
さて、
年齢不詳であるこの龍長が、どうして一頭のみで、夜を眺めているのだろうか。
答えは直ぐに、明るみになる。
「ほほう。ソチが、一番乗りであったか。
ソナタは、義を重んじる種族故。今宵も、陽を待つ所であったぞ!」
束の間、黒服より白衣を露わにした老人が、闇より浮き出てきた。
「これは長殿。失敬であった。
拙僧も、老体の身であれば。明日は、我が身と言うものじゃ。
今年が、最後の参列だと思うてのう。気合を入れたまでよ」
とほほ。と、
自慢の胸筋を揺らしながら、優雅に歩を進めてくる。
龍長は、空かさず、
「とく坊。
そないな、おもねてもあきまへんで!」
と、渾身の人間語でツッコみ返す。
同時、
陰より潜む五人の刺客が、死闘の合図を鳴らした。
「御免、解ッ!!」
響き重なる六つの言霊が、合掌を飛び越え、主たちである坊主の入れ墨より現れた。
それらは、確かに幻影ではない。
麒麟に纏わる思念の降霊と、召喚術との合わせ技であった。
坊主たちは、精神体をその羽衣で包み、
『麒麟』という守護神を、降霊させている。
これこそ、
龍域に踏み入れる者であると、
龍が、笑った。
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