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101回目の首

というわけで新作始めます。


雇い主の吸血鬼は怠惰な有能。メイドはクールな有能。周りを有能に改造。そんな話です。


8万文字ぐらいまで一区切り出来るとこまでは書きました。

そこから先は応援次第ということで。


是非とも感想ブクマ宜しくお願いします!

「――誠に残念なのですが」


 幾度この台詞を聞いたか分からない。

 化粧漆喰の壁に囲まれたホールの玄関前で私は白髪のメイド長に解雇を宣告されていた。


「――お世話になりました」


 理由を訊ねても結果は変わらない。

 無駄な時間と労力を割く必要はない。

 ついでに、お金もない。

 屋敷を出て街を歩く。

 木枯らしが吹き始め、枯れ葉が私の髪に当たり石畳に落ちる。季節はもう冬になろうとしているのに、宿を借りる金も、替えの服も、明日の飯の種もないのだ。早めに次の勤め先を探さねばならない。

 ふと、道行くマントをなびかせ剣を下げた冒険者が目に留まる。ああいった道もあった――と思うがそれは無理な話だ。何より私は――『殺す』ことはもう出来ないのだから。


 ――そして何より。


 私は餞別として頂いた紺のメイド服を見つめる。


 ――これが、楽しいのだから。


 夕暮れ迫る寒空の下、私は酒場に入る。別に暖を取ろうとしたわけではない。酒場の隅には掲示板があり、一般の求人が貼りだされている。それを確認すべく立ち寄るが――特に目新しいものはなかった。どれも大工などの人足、もしくは『商売女』の募集である。


「――よう姉ちゃん。どうだい今夜あたり?」

「そんな地味な服は捨てて素っ裸になったほうが稼げるぜ?」


 近くのテーブルから粗野な掛け声と下品な笑い声が私に浴びせられる。私が彼らを一瞥すると――その中の一人が「あ――」と声を漏らす。


「止めとけ――」

「あ? なんだよいいじゃねえか、胸はねえが、尻は抜群のいい女――」

「馬鹿、よく見ろあの銀髪蒼目は――あれ『冥土のメイド(ハデスメイデン)』だろ」


 その言葉に下品な笑みを浮かべていた髭面の男はグッと飲み物を詰まらせたように黙る。


「――やべ」


 そう言うと彼らは私から視線を逸らし、静かに飲み始めた。その様子を見て私は小さなため息を吐く。

 この街に来て半年弱――それでも自分の悪名がここまで響き渡っていることに軽い絶望を覚える。

 噂の届かない遠くの街へ行くべきかもしれないが――そのような旅費は何処にもない。何でもいいから仕事を――皿洗いでもいいから、と酒場の日雇いの仕事をしたこともあったが、それも当日の『途中』で追い出されることもしばしばだった。


 あらゆる一般職を転々として付いた二つ名が『冥土のメイド(ハデスメイデン)』。


 ――そう、私は――『死を呼ぶ女』なのである。



    ※※※



 カラン、という音と共に酒場の扉が開かれ、一瞬冷気が吹き込む。

 皆の視線がそちらに一瞬向くが、そこには誰の姿も無かった。


「やあ、募集はここに貼ればいいのかな?」


 私は驚いて視線を上げると、そこには全身が真っ黒な外套に覆われ、顔もフードを目深に被り隠した長身の男が立っていた。

 その声は非常に柔らかく、優しいトーンで投げかけられる。

 一拍置いて私はそれに答えた。


「そうですね、討伐クエストや素材集めはギルドですが、それ以外はいつもここに貼られていますので問題ないかと――私は店の者ではないので許可はそちらで取って頂けると幸いですが」

「そうかそれはすまなかったね、ありがとう」

「え――」


 そう言うと彼は私に一礼してから私の手に『金貨』を一枚握らせる。


「――何ですかこれは……」

「ん? お礼だけど、少なかったかな?」

「いえ――これは多すぎ――」


 私が彼にそれを返そうとする前に、彼の姿はもう私の傍から掻き消えていた。


――何処に消えたの?


 混乱する私が周囲を見渡していると暫くして禿げ頭のガッシリした体格の店員がやってきて、一枚の羊皮紙を掲示板に張り出した。


『メイド募集――明日夕方からこの酒場二階の個室で面接 給金 月 三百ウェン グラナーダ家当主より』


 その給与の額を見て私は思わず目を瞬かせる。三百――ウェン?

 月の暮らしは最低限で済ますなら百ウェンも掛からない。その三倍を出す、とこの雇い主は言っているのだ。

 雇い主の欄を見ると『グラナーダ家』とある。グラナーダ家――聞き覚えは無かったが、これほどの金を用意するならどこかの貴族であろうか? もしくは詐欺という線もある。集めた女を何処かに売り飛ばす――などという事例も昔はあった。しかし――


「あの、これは……」

「ああ、間違いねえよ。保証金を置いていったからな」


 私がそれを貼りだした真意を店員に訊ねると、彼はしっかりと頷いた。

 その募集の貼り紙にはしっかりと店の保証である赤い蝋印が押されていた。

これは依頼主が店に保証金を差し出し、しっかりした依頼であると証明するときに押されるものなのだ。

はした金の為に女子を誘拐して失うには勿体ない額の――ゆうに相場の3倍は納めねばこれは押してもらえない。

つまり、この依頼は――『本物』である可能性が格段に上がったのだ。

 私は先ほど手に握らされた金貨を見つめる。


 ――もしかして、さっきの?


 依頼主は先ほどの男だとほぼ確信に近い思いが湧き上がる。金銭感覚のズレもだが、明らかにあの男は――変だ。

 私は受け取った金貨を再び握りしめると――


「すいません。サバミショ定食一つ下さい」


 戦いの前には栄養補給は欠かせない。

空腹に耐えかねたお腹を満たすために大好きな魚料理を注文し、明日に備えたのであった。




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