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「光希、私の愛しい子。どうしたの?こっちへいらっしゃい。」
「ーーーーー…」
「あら、またおっきな涙を零して…嫌なことがあったの?大丈夫よ、ほら、ギュってしてあげるわ」
「ーーー」
「…ふふ、泣き止んだわね。お目目の周りも真っ赤になってうさぎさんみたいよ、私のカワイイ子。」
「ーーーーーーー!」
抱きしめてくれた時に香る花の香りが大好きだった。
頭を優しく撫でてくれる、その白くて柔らかな手が大好きだった。
私の名前を呼んで、愛しい子と言ってくれる貴方のことが大好きだった。
…あぁ、これは夢だ。私の夢。
小さい頃の、幸せな夢…
「……おかぁさん」
「ん?起きたか、ミツキ」
幸せな気持ちのまま意識が浮上して、名前を呼ばれた瞬間にパッと覚醒した。
あれ、何か夢みてた気がしたけど…気のせいかな?
「どした?まだ眠いんなら寝てていいぞ?」
きらきらの紅い瞳に覗き込まれて、私はゆるゆると首を振った。大丈夫、バッチリ目が覚めました。
起き抜けの美形ドアップは心臓に悪いなぁ…
「おはよーござましゅ…んと、ここどこ?」
キョロリと辺りを見渡すと私がいた森とはまったく違う白銀の森が足下に見えて、思わずおぉ、と声が漏れた。
植物全てがキラキラ輝く白色だ…葉っぱも枝も幹も、地面に生える草でさえ白一色で統一されている。
え、なにここ。すごいね??
「イルルカの森だ。別名神の森とも言われてるが…まぁ、ただの真っ白な森だな。
あの森の中に砦がある。もうちっとで着くから我慢してくれな」
ルドにぽふんと頭を撫でられて気持ち良さで目が閉じちゃう。
んむむ、おぬしなかなかやるな…!
ルドってば撫で方上手いんだよねぇ。私が猫だったら今絶対喉鳴らしてるぞ!ごろごろ!
「お、見えてきたぞ。あの黒いのが砦だ」
そう言ってルドが指差した方を見ると、真っ白な森の中にポツンと漆黒で塗り固められた石の砦が見えた。
四角い小さなお城を囲むように4本の塔が周りを囲んでいて、その塔をつなぐように高い塀がそびえ立っていた。
白と黒しかないその景色はただただ幻想的で、無機質なはずの黒い砦がどこまでも神々しく見えた。
ふぉおお、すごくかっこいい!真っ白な世界に1つだけある黒!なんだか本当に神様が住んでそう…!
「しゅごい!るど、ここにすんでるの?」
見た感じ周りに他に建物はないし…あれ、もしここに住んでるんだとしたら、ルドってばもしかしてお貴族様!?ひぇ、恐れ多っ…!?
「まぁ、住んでるっちゃあ住んでるか?
砦部隊に所属してる奴らは全員ここに住んでるしな、確かにここは俺らの家でもあるか」
お?砦部隊…部隊?確かにルドは軍服っぽい服着てるし、お貴族様じゃなくて軍人さんみたいな職業?なのかな?
じゃあこの砦は部隊の拠点ってことなのかな。
何にしてもすごいなー。ルドはこんなおっきな砦を拠点にする部隊に勤めてるのかぁ。
……あれ?そんなとこにちっこい私が行くの、めちゃめちゃ迷惑じゃない!?大丈夫なのかな?ルド、上司の人とかに怒られたり…!
「る、るど。わたしがいってもだいじょーぶ?るどはおこりゃれない?」
「あ?怒られるって…俺がか?何だいきなり?
…ちーび、ちびちび、こら。まーた変な気使ってやがんな?」
あ、呆れた目線…うぅ、ごめんなさい…
でもだって不安じゃん!いきなり子供拾ってきました!とかみんな絶対ビックリするでしょ!?
「ったく、俺のカワイイさんは心配症だな?
言ったろ、連れ帰るって。心配しなくても誰も怒んねぇよ。
怒る奴がいたとしても俺がぶっ飛ばすから安心しろ」
「っ、…ありがと、るど」
ニカッと笑ったルドの顔には微塵も心配なんて浮かんでなかったから、私も気にしないことにした。
大丈夫、ルドがこう言ってくれてるんだもん。少しだけお世話になって…それで、早く自立できるよう頑張ろう。
できるだけ迷惑かけないようにするから…
1人で決意を胸にしていると、ロゼリアの駆けるスピードが緩やかになりやがて地面へと降り立って止まった。
うーん、近くで見るとますます圧巻だなぁ…!
ロゼリアからルドと一緒に降りると、地面には降ろされずにそのままルドに抱えられた。
…あの、ルドさんや?私一応歩けるよ?
確かに歩幅とかちっこいから遅いけども…重くない?
「るど?わたしありゅくよ?」
「だーめだ。ミツキはどっか危なっかしいかんなぁ。いいから大人しく抱えられてろ」
「…はぁい?」
まぁ見た目3歳児?ですもんね。大人しくしております。
私を抱えたままスタスタと歩くルドと、その後ろを優雅についてくるロゼリア。
大きな門の前で止まると、ルドは門を思いっきり蹴り出した。
「ひょ!?」
「おい、フェリスタード!いんだろ!開けろ!寝てんな!!毎回門番の仕事サボってんじゃねぇぞ!」
ガンガンと門を蹴る力はどんどん強くなってきて…あの、ルドさんや!それ以上やると門やばくない!?
なんかめちゃくちゃ頑丈そうな門が凹んできてるんだけど!?
もう少しで門貫通するのでは?ってとこまできた時、門の向こう側から気の抜けた声が聞こえた。