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神様の愛し子  作者: 九稲
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閑話2〈ルドヴィック視点〉


魔物に襲われていたのは、まだ3,4歳ぐらいのちっこい子供だった。

小せぇ体にはあちこちに擦り傷や切り傷ができていて、それだけで胸が痛くなる。

くすんだ灰色の髪で隠れて顔は見えないが、服はボロボロで靴も履いていない。

それなのにこんな森にいるなど、どう考えても異常だった。





「…大丈夫か?」







そろりと顔を上げた子供と目が合う。真っ赤なその瞳は、どんな純度の高い宝石よりも美しく見えた。

怯えさせないように優しく声をかけたが、反応は返ってこない。

子供はただジッとこちらを見つめ、何かを思案するように瞳を揺らめかせた。



言葉がわかんねぇ、のか?いや、どっか痛むとか?それともまだ怯えている?

…当たり前だ。こんな森の中で1人の上、魔物に襲われたんだから。



子供をこんな目に合わせた全てに怒りが湧き、ギリ、と無意識に奥歯を噛み締めていた。

殺気さえ出そうになり慌てて力を抜くが、幸い子供は気づかなかったらしい。

未だにこちらをジッと見つめ、その瞳の奥がユラユラと揺れている。



「おい?どうした、どっか痛むのか?」

「っ!」



もう一度声をかけると、瞳の奥の揺れが一際大きくなったのが見えた。




「ぅあ、だ、いじょうっ…」



力が抜けたようにへたりとその場に座り込んだ子供が絞り出した、引きつり、震えた声。

小せぇ口から溢れた言葉にならない言葉とともに、その宝石のような瞳に一気に水が溜まり、耐えきれずに零れ落ちた。

ポロポロと零れ落ちる雫が地面を濡らす。

声を殺して無言で涙を流すその姿が一層痛々しくて、抱きしめてやりたい衝動に駆られた。


「お、おい、泣くな!やっぱりどっか痛えのか?どこだ?見た感じでけぇ傷はねぇけど…

ああ、泣くなって!そんな泣いたらその綺麗な目ん玉おっこっちまうぞ」

「…ん、ふふ」

「っ!」



焦って駆け寄り声を掛けると、何が面白かったのか子供は俺を見上げてふわりと笑顔を浮かべた。

頬を濡らした涙は未だに止まっていないってのに。少し楽しそうに笑うその子供の笑顔を見た瞬間、胸の奥から愛しさが込み上げてきて堪らなくなった。




…ああ、なんてこった。愛しくて愛しくてたまんねぇ。

どんなものからもこの子を守れと、身体中が叫んでやがる。

気付いた時には子供を抱き上げていた。

腕の中にすっぽり収まる小せぇ体に、俺はこの世界で初めて、生きる理由を見つけた気がした。














少し落ち着いたところで森にいる理由や保護者について質問したが、ゆっくりと涙に濡れた瞳に暗い色が差し込んだのを見て、慌てて話題を変えた。

まぁ、周りどころかこの森に魔物以外の生物反応はなかったから、保護者がいないことはわかっていたが。


捨てた?こんなに可愛くて小せぇ子供を、森に1人で?






…ああ、そいつブッ殺してやりてぇ…。






俺が派遣される理由となったあのでけぇ魔力は間違いなくちびから出ていたものだ。

調べねぇとわかんねぇが、魔力封印がなんらかのショックで解けて放出したってとこか?




…だとしたら、捨てたっつーよりは誰かが逃した…?




チッ、とにかく急いで保護して封印を掛け直さねぇと…今回ばかりは砦部隊(ウチ)に真っ先に依頼が来て助かった。

この魔力量は下手したら国が戦争起こすレベルだからな。






子供の名前はミツキと言うらしい。


"ツ"が言えずに悶える姿が可愛すぎて、むしろ俺が悶えそうになったわ。

珍しい響きだとは思ったが、それ以外ねぇと思えるほどピッタリだとも思った。

なんつーか、ミツキに出会ってからずっと不思議な感覚が体を巡ってやがる。嫌な気はしねぇし、むしろ幸せな気分になるから別にいいんだが…



俺の名前も教えたが、子供の舌じゃ言いにくいらしい。しゅんと落ち込む姿に気にするなと頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。



な…っんだこれ、可愛いがすぎんだろ!萌え殺す気か!?



省略すれば言えるか?と聞いたら、嬉しそうにるど!と舌ったらずな声で呼んでくれた。天使か。





「ん、それでいい。さて、ミツキ。この森はお前さんみたいなちびっ子がいるにはちっと危険すぎる場所だ。

…お前さん、行くあては?」

「ん〜、にゃい!でしゅ……えへ」



明るい声で答えながら、勢いよく手を挙げるミツキの瞳には、どう見たって混乱と絶望が混じっていて。

そんなこと明るく答えんじゃねぇよ、まだ小せぇガキのくせに…心と体が一致してないのなんて一発でわかんだよ。

答えのわかりきった質問をした自分にクソほど怒りが湧いたし、そんな俺に心を隠して返事をしたミツキに胸が痛くなって、思わず手に力が入った。


ジッとミツキの瞳を見つめたままでいると、悲しげにへらりと笑って目を伏せるミツキに、益々自分への怒りは強まった。

だが今は自分の感情よりもミツキを優先する時だ。

フッと息を吐いて気持ちを切り替える。





「ミツキ、行くあてがないのなら俺んとこに来い。1人ぐらい増えたって平気だろうしな」


そう言った瞬間、俯いていたミツキの顔が勢いよくバッと上がった。


「るど、の、ふたんにならない…?」


次いでかけられた言葉はどこまでも俺のことを思った言葉で、どこまでも…ミツキの心を無視した言葉だった。

悲しげに、不安げに下がっていく眉に思わず喉の奥が引き攣り、そんなことあるわけねぇ!と叫びそうになるのを必死にこらえた。



「…っ、ガキが何変な遠慮してんだ、阿保。お前さんみたいなちびっ子が負担になる程俺ぁやわじゃねぇよ。

来い、ミツキ。お前は俺が連れ帰る」



一度出かかった言葉を無理やり飲み込んで、勤めて冷静に声をかける。

情けない顔をミツキに見せたくなくて髪をかき回したが、ミツキの少し震えが混じった返事にホッと安堵の息を吐いた。




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