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魔力研修も無事終わり、ちょっとだけ魔法の勉強をしたものの、ルドが来たタイミングで勉強会はお開きとなった。
この世界のことを何も知らない私としてはもっと勉強したいなとも思ったのだけれど、そんな好奇心よりもルドのいない寂しさにだいぶ精神が参っていたらしく、ルドが一緒にいてくれるならお開きでもかまわない!と大人しくルドの腕の中におさまった。
魔素が体に馴染むまで時間がかかるらしいし、その間はエドさんたちが勉強会を開催してくれるとのことだった。
なんだか手間ばっかりかけちゃって申し訳ないなぁと少し眉を下げれば、エドさんに気にするなと頬を撫でられ、リューには無言で頭をワシワシされた。
うぅ、この砦の人たちがみんないい人すぎて泣きそうだよ!一生ついていきます!
エドさんとリューにお礼を言って魔法塔を後にした後、ラーナさんとばったり会ったので少し立ち話をしていたら、そういえば、と切り出された。
「キースベルがね、ものすっごく悩んでて…とある貴族から服飾の依頼を受けたらしいのだけど、納得いくものができないってウジウジしてて鬱陶しいの」
少し困った顔で頬に手を当ててラーナさんがため息をつく。
おおぅ、そんな優しげなお顔で弟さんのこと鬱陶しいってバッサリ切り捨てるのねラーナさん…!
少しびっくりした顔を向ければ、物凄い笑顔で微笑まれた。うっ、今日も美しいですね!!
それにしても、ベルさんが悩んでるなんてスランプとかなのかな?
「べるしゃんだいじょーぶ…?」
会ったばかりだけれど、ベルさんってあんまり悩むイメージがなかったから少しだけ心配。
でも私服飾のことなんてさっぱりわからないし、力にはなれないよねぇ。
「キースベルが悩むなんざ珍しいこともあんだな。
あいついつもアタシの辞書にスランプなんて文字存在しないわ!とかほざいてたじゃねぇか」
「そもそもあの子は自分の作りたいものしか作らないし、今回の依頼もアイディアが溢れて止まらないわ!とか言って受けたものの1つなのよね。
なのにいきなりアタシが作りたいのはコレじゃないの!!とか言い出しちゃって…」
うーん?と3人で首を傾げる。
とりあえずベルさんが大変そうなのは分かったけど…
「そんで?俺たちにそんな話ししてどうすんだ?」
俺たちにゃどうにもできねぇぞ、とルドが少しだけ眉間に皺を寄せながらラーナさんを見ると、当のラーナさんはやっぱり少しだけ困った顔をして、それでもどこか楽しそうに私たちに告げた。
「ちょっとだけ頼まれてくれないかしら?」
「きゃーーー!!ミツキちゃんってば、ほんっっっとに可愛いわ!アタシの作った服を可愛い子が着てもーっと可愛くなるなんて!なんて夢のような出来事なの!!」
みなさんこんばんは!わたしは今!ピンクゴールドの瞳をこれでもかってくらいにキラキラと輝かせたベルさんの手により、見事な着せ替え人形となっております!!
…なんでこうなった??
いやぁ不思議です。
ラーナさんの有無を言わさないお願いにより管理塔部隊の服飾部屋に連行された私達は、中にいたゾンビのような服飾の隊員さん達に見つかった瞬間、あれよあれよと言う間に着せ替え人形にされておりました。
何を言ってるかわからないって?いや、私もこの状況ちょっとよくわかんない…
さっきまで本物のゾンビよりもゾンビらしい顔した服飾の隊員さん達が、生気を吹き返したみたいにキラッキラのツヤツヤなお顔で私たちを見てるんだもん。
何でみんな泣いてるの?えっ、拝まないで!?息止めないで!?昇天しようとしないで!!??
隊員さんとベルさんに部屋に引き摺り込まれた私は、真っ白なシルク生地に金の刺繍を余すことなく施した艶めいたドレスを身に纏い、髪に真っ赤な薔薇をいくつも編み込まれた、どこぞのお姫様のような格好に衣装チェンジさせられていた。
そして…
「…おい、なんで俺まで」
一段低い声で唸るような声を上げたのは、いつもの隊服じゃなく白を基調とした生地に鮮やかな紅の刺繍が裾や袖に入った、金装飾が上品に散りばめられた騎士服に身を包んだルドだった。
いつもはワイルドにかきあげられた無造作ヘアも今はきっちりと綺麗に結い上げられ、ぴょこりと束ねた尻尾みたいな後ろ髪には金のリボンが揺れている。
死ぬほど不機嫌そうな顔で隊員さん達を睨みつけているけれど、それすらも今のルドをもっと格好良く見せるための1つのスパイスとしてしか役に立っていない。
そう、今のルドは尋常じゃないくらいかっっっっっこいいのです!!!!!!
私の格好と相まって、今の私とルドは一国の姫とその姫を守る騎士のよう!!!
これが興奮せずにいられる!?むり!私にはむりだった!
何でこの世界カメラないのかなぁ!!ルドの姿が後世に残せない!!!!
フンスフンスと荒い鼻息を出しながらも、私はルドから目が離せなかった。
この世界に来て今1番幸せです!!ありがとう神様!!と、ベルさん!!!!




