閑話6〈ルドヴィック視点〉
一瞬だけルドヴィック視点の閑話を挟みます。
砦部隊の本当の仕事、というものを説明しようとしたのですが大分ふんわりとしたものになってしまいました…
詳しく知りたい方は後書きの方に書いてありますので読んでみてください。
カツカツと足早に歩く音が廊下に響く中、俺はただ思考を巡らせていた。
ミツキが神の愛し子だということはもう世界中に通達が行っている。
その珍しさと恩恵に期待して手を出してくる馬鹿どもが湧いてくるだろう。
俺たち砦部隊は世界不可侵と言われてはいるが、命令権がねぇのはこちらも同じこと。
様々な力が俺たちの方が上だからこそ多少の無茶も許容されているだけだ。
だが無茶をし尽くして混乱を招くようなことをしたいわけじゃねぇし、力に物を言わせて思い通りに動かしたいわけでもねぇ。
まぁ、それでも言いなりになるつもりも渡すつもりも毛頭ねぇがな。
チラリと手に持った数枚の書類へと視線を移せば、少し乱雑な文字でミツキについての情報が並べられていた。
報告書、と綴られたその書類たちは余すことなく文字で埋まっているが、未だに全て書ききれているわけじゃねぇ。
…とは言ってもミツキについて分かることなどそう多くはねぇが。
膨大な魔力量は恐らく神の愛し子だからだろう。
あの柔らかな白髪と宝石のような赤目が神の愛し子たる証拠になるが、なんせ愛し子の出現が3000年ぶりだ。
そのせいで益々ミツキの希少性に拍車がかかっちまってることに少なからず頭痛を覚える。
ミツキは森にいた以前の記憶はさっぱり持ってねぇし、その上常識にさえも首をかしげるほどの無知。
だというのに文字は読めるし難しい言葉も使う。どこまでもチグハグで違和感だらけだ。
…だが、愛し子は突然そこらに出現するようなものじゃねぇ。
生まれた時から愛し子であり、成長過程を経てその力を強くすると言われている。
なのにミツキは突然森に現れ、その力を爆発させた。
情報を集めようにも痕跡一つでてこねぇとか、それこそありえねぇだろ…。
「…チッ、まいったな」
前途多難だと小さく悪態をつくが、諦めるわけにもいかねぇ。
とにかく今わかっていることだけでも纏めてしまおうと執務室へと向かう足を早めた。
「…っと、あぶねぇ。追加の紙は机の上に置きっぱだった」
自室の前を通り過ぎようとした時、使用する紙を自室の机の上に置きっぱだったことを思い出し、足を止めた。
部屋の中に入り目的のものを手に取れば、そういえば…と、ふと午前中のミツキとの会話が頭をよぎった。
砦部隊は世界で最も特殊な立ち位置にいる。
黒持ちがトップであり、隊員の大半が亜人種で構成された部隊。
力があるから認められているものの、亜人種の多くが生きにくいこの世界では、俺たちみてぇに好き勝手できる奴らの方が稀であることなど嫌という程わかっている。
今でこそ徐々にその体制は変わりつつあるものの、根付いていた迫害意識はそう変わるもんじゃねぇ。
まだ世界不可侵の条約がなされる前の…砦部隊ができる前の俺たちは、ただひたすらに生きていくことだけを考えて活動していた。
今思えばなぜあんなにも必死だったのかと馬鹿馬鹿しく思ったりもするが、あの頃がなければ今はなかったと思うと全否定もできねぇ。
歴史と称して教科書なんぞに載せられた俺たちの過去は、それはもう血濡れたものばかりだ。
ミツキが文字を読めるなどとは思わなかったからこそああして開いて中を見せはしたが、あの部分は読まれてはねぇよな…?
すぐに話をそらしたから大丈夫だとは思うが。
入り口横に並んでいる本棚をなぞって目的の本を引き抜くと、パラリとページをめくる。
ミツキが興味を持った"独立4部隊の主な仕事について"という部分に目を落とすと、思わず眉間にシワが寄った。
「ぜってーバレねぇようにしねぇと…」
ミツキに説明した俺たちの仕事内容は間違ってはいねぇし、同じようなことが本には書かれているが、それは綺麗な部分だけを抜き取ったに過ぎねぇ。
俺たちは部隊だ。戦うことが仕事であり、独立部隊はその一つの群れで戦争を生き抜かなきゃならなかった。
だからこそ俺たちが得意とすることも、その内容も全てにおいて血濡れている。
間諜、疫病、大量殺人、街破壊、解体、武器製作、暗殺…
絞り出せばこんなもんじゃたりねぇだろう、その血染めの過去を今更後悔などしてはいねぇが、それでもミツキは知らないままでいいと勝手なことを思ってしまう。
アイツがこのことを知ったとしても態度が変わることはないだろうが…真っ白なミツキの心にこんな赤黒い色を入れるわけにゃいかねぇからな。
つーか知られたら俺だけじゃなく他の奴らも慌てふためきそうだし。
並んだ無機質な文字を軽く読み流せば、目を覆いたくなるような自身のやらかした過去が次々と出てきやがる。
しかも脚色を加えに加えて正義の味方のような扱いをされていることに対して、寒くもないのに一気に鳥肌が立った。
もしかしなくても俺たちを辱めるために出版されたのか?と思うほど酷ぇ内容。
民間に砦部隊を脅威と思わせぬよう、そして戦時中の自国の行いに正当性を持たせるため、どの国も砦部隊に依頼した時の話はどこぞのヒーローもののような薄ら寒い話になっていて、思わず誰かの創作物か?と疑うほどだ。
これは別の意味でミツキには見られたくねぇ代物だな…。
思わず遠い目をしながら、乱雑に元の本棚の奥へと押し込んだ。
だめだ、ちょっと紙を取りに立ち寄っただけだってのに嫌なもん見ちまったせいで精神疲労が激しい。癒しが足りねぇ。ミツキが足りねぇ。
…さっさと報告書書き上げてミツキ迎えに行くか。
食堂での可愛らしいミツキの姿を思い浮かべて萎んだやる気を回復させつつ、いち早く仕事を終わらせるために再び執務室へと足を進めた。
(興味のない方は読み飛ばしていただいて大丈夫です!)
4つの独立部隊の仕事について
【守衛塔部隊】
表向きとしては要人や屋敷などの警護の依頼、又は医療関係の依頼をよく受けている。
他者の警戒心を解く術を持ち、裏では間諜として活躍するものが多い。
【魔法塔部隊】
魔力量、魔法を扱う技術、知能が頗る高い天才集団。
表向きは魔法の研究や生活魔道具などの製作を行っている。
不可能と言われた高火力の広範囲魔法や殺戮魔道具などを容易く作り出し、幾度となく一瞬で街一つを消し炭にした。
【管理塔部隊】
掃除洗濯料理等の家事や服飾、大工等の能力が異様に高い物作り集団。
裏では掃除屋として死体処理、証拠隠滅作業を得意とし、また製作スピードが桁違いなため大量の武器・武具等の作成も担当。
【情報塔部隊】
情報収集という地味な仕事ではあるが、世界各地の情報を集めるため機動力や交渉などの能力値が高い。
また、裏では情報を手に入れるために拷問、精神誘導、洗脳なども行う。
隠密のスキルが高いので暗殺を担当することも。
裏では、とありますが本来の仕事はこちらがメインです。独立部隊と銘打ってますが、何でもやらないと生き残れなかった彼らは本当に何でもやります。
部隊というよりは裏稼業の者といったほうが正しいのかも。




