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私がごちそうさまをしてから数分経つと、やっと皆んなが再起動しだした。
それぞれ口元や目元をを押さえて呻き声をあげてるので軽くホラーみたいになってるんだけど…ほら、今食堂に入ってきた隊員さんとか物凄い目でこっち見てるよ。
医療班呼ぼうとしちゃってるよ。
「はー…、破壊力たっけぇ…」
「これは…疲弊した精神には特に効きますね」
「ルドヴィック、持ち帰っていい?」
「ダメに決まってんだろしばくぞ」
動きだした3人もそれぞれため息をついていて、なんだか私が悪いことしたみたいな気分…。そうか、私の変顔は罪なのか…
次からご飯食べるとき気をつけよう。
それにしても3人とも食べるの早いなぁ。もうなくなってるじゃん。
やっぱり男の人って口大きいからすぐ食べ終わっちゃうのかな?
「うし、そろそろ魔法塔に行くか」
「おや?魔法塔に用事ですか?」
「あのね、まりょくけんしゅーうけにいくの!」
「魔力研修…ですか?ふむ…」
リョシュア先生にこれからの予定を伝えると、顎に手を当てて何かを考えるように俯いた。
それから少しして顔を上げたリョシュア先生はなんだか困ったように微笑み、私の頭を優しく撫でた。
「…?しぇんしぇー?」
「魔力研修後、また医療室に来てくださいませんか?もう一度健康診断をしましょう」
「魔力研修を受けた後に、か?またなんで」
先生の言葉に私とルドが一緒に首を傾げれば、なぜかフェリがおーと感心したような声をあげる。
…なんで拍手までしてるの、フェリさんや?
「恐らく、午前中に測った数値とは大きく異なると思いますから。身長や体重は変わりませんが、その他の再検査は必須でしょうね」
「…ルドヴィック、ーーー」
私が不思議そうに見ていると、フェリがルドの袖を引っ張って何かを耳打ちした。
フェリの声は小さくて聞こえないけれど、ルドの表情がどんどん険しくなっていくのを見て、よくない話なんじゃないかなんて不安になってしまう。
思わずリョシュア先生の方を見上げたら大丈夫だと微笑まれたので、なんとか自分を納得させた。
「…わかった、終わった後すぐの方がいいか?」
「いえ、また明日で構いません。出来れば今日と同じ時間帯に。
恐らく変化した魔力が馴染むまでに1日はかかりますから」
「…そうか」
フェリが離れてもルドは険しい顔つきのままだった。
眉間にグッとシワがより、纏うオーラがものすごく重く感じてしまう。
ルド、ルド顔怖いよ?周りの人たちがすごく引いちゃってるから。
もともと強面系なのにもっと酷くなっちゃってるよ!今なら多分そこら辺の熊も逃げ出す気がする。
「るど、おかおこわいの!」
とりあえず顔つきをなんとかしてもらおうとルドの膝によじ登り、眉間を指でぐりぐり。
広がれ〜、ルドの眉間のシワ広がれ〜!と念を送りながら思いっきりシワを伸ばす。
おっ、お客さん結構凝ってますね〜、なんちゃって。
「…ミツキ、何やってるのー?」
「しわのばしてるの!」
フェリの呆れたような声にフンスと鼻息を鳴らして答えれば、苦笑が返ってきた。
「プニプニの指でマッサージされんのも悪くねぇな」
「ルドヴィックは頭でも打ったのー?キャラ変わりすぎ」
「うるせぇ。つか何だキャラって」
「だって子供相手にデレデレするとか僕見たことなかったもん。今自分がどういう顔してるかわかってるー?
周りの隊員なんてありえないもの見たって目剥いちゃってるよ」
「…話には聞いてましたが、愛し子の存在とはここまでなんですねぇ」
2人の反応に私は思わず首を傾げてしまう。
え、そんなに違うの?
確かに今のルドの顔は結構だらしない顔をしてるし、そんなルドを見た食堂内の隊員さん達はみんな白目を剥いてるけどね。
1人納得したように頷いているリョシュア先生と、その横で諦めたような視線を向けるフェリを綺麗にスルーしているルドもルドだけど…。
とりあえず表情が元に戻ったのでパッと手を離せば、そのままルドに抱えられてお膝の上に。
うむ、しっくりくる。よきにはからえー?
流れるような行動に最早誰もツッコミを入れなくなったところで、流石にそろそろ向かわないとヤバイということで、全員立ち上がった。
食器を返却して美味しかったです!と御礼を言うと、厨房にいたお姉さんにお菓子をもらってしまった…あとで食べよう。
管理塔を出たところでフェリと先生と別れ、足早に魔法塔へ向かえば、入り口にリューが待機していた。
こちらに気づくと昨日同様無言で近づいてきてじっと見つめられる。
「ごめんね、りゅー。おしょくなっちゃった」
「…食堂、混雑?」
「いや、ちょっとリョシュア達と話し込んじまった」
「…診断、問題?」
「いや…まぁ魔力研修後にもう一回しなきゃいけねぇらしいが。
そこらへんもエドイアに聞いといてくんねぇか」
「…了」
「ほんじゃ、俺ァ仕事に行くが…ミツキ、早めに終わらせるからいい子で待ってな」
「あい!るど、おしごとがんばってねー!」
元気よく返事してルドを見送ったのはいいものの、リューと一緒にエドさんの執務室に向かっている途中、何度も無意識にルドの姿を探している自分がいることに気づいた。
ルドの姿が見えないと心がそわそわして、寂しさが溢れてしまう。
…おかしいなぁ、私こんなに弱かったっけ?
じわじわと瞳がぼやけてくるのを必死で目を見開いて乾かすけど、全然乾いてくれない。
なんだか気分は迷子になった子供だ。
親が恋しくなる歳なんてとっくに通り過ぎたはずなんだけど…やっぱり精神が体に引っ張られてるのかな。
他人の体温が恋しくなって、手を引いて歩いてくれるリューの手にギュッと力を入れたら、気づいたリューが抱き上げてくれた。
「…ミツキ」
リューの肩口に顔を擦り寄せれば、優しい声で名前を呼ばれる。
ポンポンと背中を叩かれるのがなんだか励まされてる気がして、少しだけ寂しさは薄れてくれた。
ごめんね、リュー。ありがとう。
ちょっとだけ私のために肩を貸しておくれ。
ちなみにリューに抱っこされたままエドさんの元へ行ったら、理由を察したエドさんにルドを呼び戻されそうになった。
いや、ちゃんと拒否したからね?
…ちょっと揺れたのは秘密です。




