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「リョシュア…医療担当のお前が不健康じゃ示しがつかねぇって何度も言ってんだろ。
見ろ、お前の顔が怖すぎてミツキが固まっちまってんじゃねぇか」
あまりのリョシュアさんの格好の酷さに唖然としていると、そんな私を見たルドが呆れたようにリョシュアさんのおデコにチョップをお見舞いした。
えっ、ルドってば結構軽めにチョップしたのにすごい音したよ?ゴッて到底戯れチョップでは出せないような音出たよ??
リョシュアさんのおデコ大丈夫?割れてない?!
「アタッ…いやぁ、すみません。気をつけてはいたんですが、ここ最近徹夜続きでして…。どうしても探し出したい薬のレシピがあるんです」
「あ?なんで薬のレシピ探すのにそんなボロボロになんだよ」
「それが、そのレシピのヒントすらないのでどうやって探せばいいのかさえ見当がつかないんです。
なので手当たり次第調べることになってしまって」
おデコをさすりながら困ったように笑うリョシュアさんをルドが訝しげな目で見れば、今度は弱々しく眉を下げてへにゃりと椅子にもたれかかって項垂れた。
うわぁ、なんだかとてもお疲れのご様子…ほんとに大丈夫かな、そんなに急ぎの薬なのかな…?
「薬のレシピってあれでしょおー?どっかの国の貴族に依頼されたやつ。でもあれってまだまだ期限先だよねぇ?」
2人の会話を聞いていたフェリがあれー?って感じで顎に人差し指を当てて首をかしげるので思わず私とルドがリョシュアさんを見ると、スッと私たちから目を逸らした。
「…ほら、最近僕宛の依頼もありませんでしたし、怪我をする隊員が少ないのでここでのお仕事もあまりなかったので…。」
「…前回も前々回もそんな感じの理由で期限が先の依頼詰めて、挙句砦内の医療仕事もホイホイ請け負って、最終自分で自分の首絞めて結局倒れたよなお前…?
そんでもって確か前回の全体会議でもうしねぇって俺たちと総部隊長殿の前で誓ったよなお前…?
ありゃ俺の聞き間違いか?」
「僕も聞いてたよー?ルドヴィックに叩き起こされたから」
「まーーーーた自分で自分の首絞めてぶっ倒れる気か?あ??その様子だと明日あたりには報告来そうだなァ?」
ドスの効いた声で淡々と話すルドに睨まれていたリョシュアさんはゆっくりと起き上がり、背筋をピンと伸ばして膝に手を乗せた面接スタイルになると、見てわかるくらいには震えながら頭を下げた。
「 すみません、依頼は後回しにします…」
泣きそうな顔でリョシュアさんがルドに謝っているのを、私はなんだか居た堪れない感じで見つめていた。
フェリのあしらい方を心得てるからエドイアさんタイプのしっかりした人だと思ってたけど…全然だめだめな人だった…。
むしろワーカーホリックな人だった…!
「とりあえずお前は砦の仕事を優先しやがれ。おら、ミツキの健康診断するんだろ」
「あ、はい。えっと…すみません、ミツキちゃん。変なところを見せてしまって…。
改めまして初めまして。僕はリョシュアです。守衛塔部隊の副部隊長で、この砦部隊の医療担当です。今日はよろしくお願いしますね」
「みちゅきでしゅ、よりょしくおねがいしましゅ!しぇんしぇー!」
ルドにせっつかれたリョシュアさんが改めて自己紹介してくれた。
っていうかリョシュアさん副部隊長さんかぁ…。
え、守衛塔部隊のツートップがフェリとリョシュアさんって…アレかな、ものすごく心配になるのはどっちも初対面時のインパクトがヤバすぎたせいかな??
守衛塔部隊、いろいろと大変そうです。
…そしてやっぱりお医者さんといえば先生呼びだよね!なんて安直な考えを実行しつつ元気よく挨拶をする。
リョシュアさんは初めは驚いていたけど、すぐに「先生かぁ…なんだか呼ばれ慣れていないので新鮮でいいですね」なんて喜んでくれた。
「それでは今日はミツキちゃんの健康診断を行いたいと思います。診断は比較的簡単なのですぐ済みますけど、ルドヴィックさんはどうします?このまま見ていますか?
それとも隣の待合室で待っていますか?」
「…すぐ済むんだろ?なら見てるわ」
「わかりました。あ、フェリスタードさんはもう門番のお仕事に戻ってくださって大丈夫ですよ。睡眠もほどほどにしてくださいね?」
「ん〜…ご飯前の交代時間に起こしに来てね、リョシュア。それじゃーまたね、ミツキとルドヴィックー」
眠る気満々の返事をしたあと、私たちに手を振ってフェリはそのまま仕事へと戻っていった。
そんなフェリに呆れ笑いをしつつ、私の診断も始まった。
「はい、お疲れ様でした。これで診断は全部終わりましたよ。よく頑張りましたね、ミツキちゃん」
「あい、ありがとごじゃましたー!」
健康診断は大体1時間もせずに終わった。
身長体重や視力、聴力、血液、内臓検診など私の知っている診断から、魔力や体内にある魔血管という器官の診断といった全くの未知数の診断も受けた。
体力的には全然平気だったけど、ちょっとだけ精神疲れが激しいな、なんて思った。
…注射?耐えたよ?泣いて…ないよ、違うよこれはちょっと汗が出る場所間違えただけだよ!
とにかく全てが終わって解放された私は今、自由だーーー!!
「診断結果は2日後には出ると思いますけど、その時はルドヴィックさんに伝えておけばいいですか?それともミツキちゃん、自分で直接聞きたいですか?」
んー、どうせ私はルドに引っ付いてるんだし、どっちにしろおんなじだよなぁ。
でもまぁ私が結果聞いたところでわかんないこととか多そうだし、ここはやっぱり保護者様でしょ!
「ううん、るどがいいのー」
「わかりました。それでは結果が出次第、情報塔部隊へお邪魔させていただきますね」
「2日後な、了解。
そんじゃ、診断も終わったし部屋戻るか。リョシュア、あんがとよ」
「いえ。また何かあったら来てくださいね」
「おー、お前も今度こそは倒れないようにしろよ。とりあえず当面は緊急依頼以外の依頼遂行は禁止な」
「…りょ、了解です」
若干不安要素の残るリョシュアさんに手を振って、私たちは一旦ルドの部屋に戻ることにした。
部屋に戻ったらルドがこの砦のことをもう少し詳しく教えてくれるらしい。
むふふ、この際だから隅々まで知り尽くしてやるぜ!目指せ、砦マイスター!!




