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神様の愛し子  作者: 九稲
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閑話5〈オズワルド視点〉




「おにーしゃん、きれーだからまぶしーの」






舌ったらずな声が発したその言葉を聞いたとき、私は確かに安堵したのです。


ランティス様達が戻ってくる前にお茶を入れようと奥の部屋へと移った後、戻ってきたランティス様とミツキと呼ばれる子供がしていた会話を私は密かに聞いていました。

漏れ聞こえる声には危惧していた暗い雰囲気などなく、楽しげに交わされる会話はフェリスタードが言っていた通りで。














「まっくろ、きれーよ?おにーしゃんのくろは、とりでのいろね」












平然とそう言ってのけたミツキ様に、久方振りに自分の目頭が熱くなったのを感じました。

あぁ、あぁ…ランティス様に対してそう言ってくださる方がこの世界にどれほどいるか。

砦の者達でさえ、今ではなんとも思っていませんが、当初はやはり恐怖という感情が少なからずあったのですから。




浅い深呼吸を1つして騒ぐ心を落ち着かせる。




…いけません、手が止まってしまっていました。

ランティス様達が戻られたと言うことは、そろそろルドヴィック達もこちらに着く頃でしょう。手早くお茶を入れてしまわねばなりませんね。



先ほどとは打って変わって明るくなった自分の心に現金なものだと苦笑が溢れるが、それでも口の端が上がるのは止められなかった。








その後荒々しく扉が開きルドヴィック達が入室し何か言い争っていましたが、大方ランティス様にからかわれたのでしょう、いつものことです。


まぁ愛し子宣言には少なからず私も度肝を抜かれましたが…確かに間近で見るミツキ様は愛し子の色を持つ愛らしい子供でしたが、特別それに対して何かを思う事はありませんでした。


そんなことよりも私にとってもっと重要なものを、ミツキ様はお持ちでしたから。




ただ驚いたのは、ミツキ様はランティス様だけでなく、獣人である私の前でもただただ自然体だったこと。

亜人種の扱いの常識を知らないのも驚きでしたが、それに対してむしろ怒りを抱いていた姿は、私のために怒ってくださったランティス様を見ているようで微笑ましくなったほどです。


まぁ耳に並々ならぬ程の熱い視線を感じたときは少しだけ身の危険も感じましたが…きっと気のせいでしょう。

えぇ、そう思うことに致します。






















「…なぁオズワルド」

「なんでしょう」

「愛し子ってのは皆ああなのかねぇ」

「…さぁ、それは私にはわかりかねます。

しかし…ミツキ様の場合は、愛し子だから、というものは関係ないように思えてなりません。

まあ、これは私の願望からくるものなのかもしれませんが」



一通りの簡単な報告と明日の予定を決め終え、今日のところはもう解散だというランティス様の言葉により皆が会議室から退室し、部屋には私とランティス様のみが残った。

視線を扉に固定したままランティス様がポツリと零した言葉に、私は小さく返答する。

交わされる会話は静かなものだったが、それでも声音の節々に微かな喜びが混じっているのを感じ取れた。



「…いや、俺もそう思った。ミツキはきっと愛し子じゃなかったとしても、俺を綺麗だと言っただろうし…亜人種を迫害するこの世界を嫌ったろう。そう思わせる何かがアイツにはあるんだよな」

「本当に、なんとも不思議な子ですね」

「面白いやつが砦に来たもんだ!ルドヴィックがデレデレになる姿なぞ想像もつかなかったんだがなー、今となってはその気持ちがわかってしまうから困る」

「まったくです。フェリスタードも大層気に入っていましたし、あの様子だと魔法塔部隊と管理塔部隊のツートップもそうでしょう」

「末恐ろしいちびすけだな」



くつくつと笑いを零しながら続いていく会話は、なんとも心地がいい。

あの子は特別な力なんてなくてもきっと、こうして自然体のまま周りの人々に愛されていくのでしょう。






「オズワルド、明日の朝の各国への通達は任せていいな?」

「えぇ、お任せください。きちんと魔力源であるミツキ様は()()()()()()()と言うことを通達致します。もちろん、ミツキ様が神の愛し子だと言うことも通達しておきますので安心してください」

「…お前、今日の首脳会議のこと根に持ってんな?」



ランティス様の若干呆れた質問に微笑みで返せば、仕方ないと言うふうにため息をつかれた。



「ま、いいけどな。砦部隊への認識が薄れてきてるっつーのはいただけねぇ。しっかり念押ししてやれよ」

「…私が、あの程度で今日のことを許すとでも?今一度()()()()()()()()をあの軽い脳みそ達によく叩き込みますのでご心配なく。

万が一にもミツキ様に手を出そうなどと微塵も考えぬよう、調教して差し上げますよ」

「おーこわっ!お前ほんと時々真っ黒になんのやめろよな。なんか背中のあたりが恐怖でぞわぞわするわ」

「どういう意味ですか…。」



大袈裟に腕をさする仕草をするランティス様に今度は私が呆れたような視線を向ければ、そのまんまの意味だ、と返された。

いえ、だからどういう意味ですか。




「おーし、俺たちもそろそろ戻んぞ。

オズワルド、一杯付き合え。今日は何か飲みてぇ気分だわ!」




尚も言い募ろうとする私に対して、雰囲気を察知したのかさっさと話題を変えたランティス様は、上機嫌で立ち上がった。


ランティス様がお酒を飲むのはすこぶる機嫌が良い時のみなので、きっと今日はとてもいいことがあったのでしょう…なんて、理由など分かりきっていますし、上機嫌なのは私も同じなのですが。





「…良いですね、私もちょうど飲みたいと思っていたところです」

「おっ、いつになく乗り気だなー?滅多に酒など飲まねぇくせに」

「貴方と同じ理由ですよ。こんな日こそ飲まなければ」

「くはっ、そうだな!やっぱ酒は美味く飲んでこそだろ!

今日はきっととびきりうまい酒になるぜ」

「ではそれに合わせてとびきり美味しいツマミを頼みに行きましょうか」

「おっ、いいねぇ」




夜も遅いですが、きっとラーナなら頼めば何かしら作ってくれるでしょう。つい無意識に尻尾を振っていたことをランティス様に指摘されましたが、抑えることすら面倒になったので放置しておきます。





どうせ明日の朝には煩わしい業務が待っているのです。

今日くらい、久方振りに感じることのできた喜びの余韻に浸ったところでバチは当たらないでしょう?












さぁ、我らの愛し子に乾杯を。





オズワルド視点書くの物凄く難しかったです…。なぜ彼を選んだんでしょうね、私は…

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