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「あらヤダ!この子がミツキちゃん!?すっごく可愛い子じゃなぁい!
…って、ちょっと!何でタオルでぐるぐる巻きにしてるわけ!?風邪ひいちゃうじゃない!」
勢いよく詰め寄りながら頬に手を当てて声を上げたその人は、なんというか…とてもオネェ様でした…。
声は完璧に男の人だけど、その声で話すオネェ言葉がものすごく衝撃的すぎる。思わず私の中の外国人がoh my godって呟いたわ…
厳つめヤンキーのオネェ様言葉に思わず真顔になったけど、気を取り直して目の前まで来たお顔を観察してみる。
「きれー…!」
お鼻高いし目もくっきりぱっちり二重でまつげも長い。キラキラしてるピンクゴールドの瞳の釣り目がなんだか猫っぽくてかわいいなぁ。
香水か何かつけてるのか、ふわりとミントのような爽やかな香りがしてものすごく女子力?を感じた。間近で見る美形の迫力に思わず心の中の言葉をポロっと零すと、その人はカッと目を見開いて、次いで花が咲きほころぶかのような笑顔を見せてくれた。
「あーん、なんっっっていい子なの!!可愛いし素直だし完璧よ!!…ハッ、こんなことしてる場合じゃないわ!
アタシが作った服を着てくれるのよね!?
この砦、ミツキちゃんほど小さい子はいないからすっごく気合い入れて作ったのよ!
夢だったのよぉ〜、可愛い子供服を作って着せるのが!
さ、これ着て頂戴!アタシに見せて〜!」
興奮気味に渡された服を受け取る。着替えるためにルドに下ろしてもらうと、とりあえず巻きつけられたタオルを腰元まで落として上から服をかぶる。
男の人が見てる中での着替えなんて…とは思うけど、それはそれ。
だって私今幼児だし、ルドに丸洗いまでされたからね。
さっきのお風呂で羞恥心はバキバキに砕け散ってもはや開き直ったよね。それでもギリギリ腰元までタオルを残してるあたり、成人女性のなけなしの抵抗を感じるけど。
渡された服は淡い桜色のフレアワンピースだった。スカートの裾の部分と白の丸襟、それから7分丈の袖のところにレースがついていてすごく可愛い。
ウエストの部分はゴムでキュッとすぼまっていて、背中側には大きな白のリボンがついている。
渡された服の中にはかぼちゃパンツもあったのでそれも装着!スカートからチラリと見えるかぼちゃパンツも可愛いです。
足首のところが折りたたまれた白靴下を履いて、スカートと同じ淡い桜色のストラップ付きぺたんこ靴を履けばかんせーい!
渡された服一式に着替え終わった後、クルッとひと回りターンを決めた。
ふわりとスカートが広がってとても可愛い。
…うん、まさかこんな本格的に全部揃えてくれるとは思わなかったから今とても驚いてるんだけど…しかもこれ、ご飯の後に制作をお願いしたやつだよね!?完成早くない!!?
だってあれからまだ2時間ちょっとしか経ってないよ!?なんで靴まで揃ってるの!?魔法かな!!?
「すごーい…!すっごくかわいいねぇ!」
驚愕しつつもすごく私好みの服を着れて心はルンルンです。
可愛い!最高!という思いを込めてみんなのほうを見ると、全員何故か固まったまま私を凝視していた。
…あの?なんでそんな顔してるんですかね??
なんというか、狐につままれたーみたいな…目を見開いて嘘だろ!みたいな顔でみんな私を見るものだから、もしかして似合ってないのかな、なんて不安になる。
「…へん、だった?あの、ごめんしゃい…」
1人ではしゃいでたのが急に恥ずかしくなって、口から出た言葉は小さく消えていった。
「っ、変じゃない!すげぇ似合ってんぞ、ミツキ!流石俺のカワイイさんだな〜!一瞬天使が現れたのかと思ったぜ?」
「ほんとよ!アタシなんて自分の才能が恐ろしすぎて戦慄してたわ!!
こんなに可愛くなるなんて…あーん、どんどんアイディアが湧いてくるわ!着せたいものがありすぎてアタシったら幸せすぎよぉ〜!!」
「驚いた…身なりを整えただけでここまで見違えるのか…。本当に天使と言われても疑えんな、これは」
「すごいわミツキちゃん!本当にどこかのお姫様かしら?今回ばかりはキースベルのセンスも褒めなきゃダメね!すっごく目の保養よ〜!」
「…天使」
しゅん、と俯くと、固まっていたみんなが我に返ってべた褒めレベルの賞賛の言葉を次々とかけてくれた。
え、あ、そんな気を使わなくても…っていうかそこまで言われると逆に申し訳ない…!!
天使だとかお姫様だとか、流石に言い過ぎだってわかるよ!?
「…ミツキ、ほんとによく似合ってる。カワイイさん…俺の愛し子…」
ルドに抱き上げられ、額に柔らかなキスを落とされた。
優しげに細められた瞳に嬉しくなって、私もお返しにルドの頬にキスを返す。
恋情なんかじゃない、これはきっと親愛だ。
胸がくすぐったくなるようなあったかい思いが溢れ出して、思わずへにゃりと頬が緩んだ。
「「「「…っ!!」」」」
エドさんたちのいる方から息を飲むような音が聞こえたので振り向くと、みんな何故か口を手で押さえていた。
肩が震えてるんだけど…何か面白いことでもあったのかな?
あ、視線そらされた。みんなしてなんなのさー!
少しして震えが収まったのか、ゴホンとオネェ様が咳払いを1つして私に視線を合わせた。
「はぁ、堪能させてもらったわ…。
さて、ちょっと順番が違っちゃったけど、自己紹介させてもらうわね。
アタシはキースベル。管理塔部隊の副部隊長よ。アタシの管轄は物作りだから、ミツキちゃんの服や靴なんかはアタシが制作を担当するわね。」
「きーしゅべりゅ、べる…しゃん」
「んふふ、ミツキちゃんには言いにくいわよねぇ。ベル、なら言えるかしら?」
「べるしゃん!とってもかわいいおよーふくありがとごじゃました!」
「やーん、こちらこそ作らしてもらってありがとう、よ!これからもどんどん可愛いお洋服作ってあげるから楽しみにしててねぇ♡」
「あい!」
元気なお返事ねとベルさんが笑うと、ちなみに、とラーナさんが続けた。
「キースベルは私の弟なのよ。愚弟がなにか馬鹿やったら遠慮なく私に言ってね、ミツキちゃん」
「んもぉ、大きなお世話よ!」
「おとーと…!」
え、2人姉弟だったの!?でもそう言われてみれば気の強そうな顔立ちはそっくりだし、瞳の色なんておんなじピンクゴールドだ。
隣に並ぶと美男美女の姉弟だってわかる。
ほぁー、なんで気づかなかったんだろ…!
というか姉弟で管理塔部隊の部隊長と副部隊長勤めちゃってるのね…とんだエリートだな…
「…さて、そろそろ時間だな。ランティス様も帰ってきている頃だろう」
「ん、そうだな。…ミツキ、あとは報告会議だけだから、もちっと我慢できるか?疲れてるだろうけど勘弁な」
「だいじょぶ、げんきだよ!」
ルドにそう声をかけられたので首を振る。
確かに子供の体だと活動の限界は早いけど、すごくしんどいわけでもない。むしろルドたちのほうが疲れてないかな?
私のせいで余計なお仕事増やしちゃったもの、すごく申し訳ない…。
それに私はお世話になる身だから、ちゃんと挨拶もしなきゃいけない。
うぅ、今から緊張してきた…総部隊長さん、怖い人じゃないといいなぁ…。




