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ぐるぐると渦巻く何かを感じる。
それはすごく熱くて、無理やり内側に押し込めてるみたいな圧迫感を伴っていた。
うーーなにこれ、心臓握られてるみたいに苦しい!
エドさんは少し体が熱くなるだけって言ってたけどこれが少し!?絶対嘘だぁ…。
しばらくの間その熱に耐えていたけれど、たった数分のことが数時間経ったみたいに感じられた。
胸の熱がすうっと引いていくのを感じながら終わったと安堵の息を吐くと、ルドが焦ったように私の元へ駆け寄って来た。
「ミツキ!平気か!?」
ペタペタと体を触られて確認される。
今の私は幼児だからね、触られたって問題なし。…いや、ちょっとくすぐったいけど恥ずかしさとかはあんまりないのよ?
「ん、へーき…ここがね、しゅっごくあちゅくなったの。もえてるみたい」
ギュッと胸のあたりを握れば、まだほんのりとだけど熱を持っていた。
「魔力封印はなんとかできたみたいだな」
魔術を終えて腕を下ろしたエドさんもこちらに向かってくるが、その足取りはなんだか少しふらふらしている気がする。
後ろを振り向けばリューがその場でしゃがみこんでいた。
「りゅー!だいじょぶ?ぐあいわりゅいの?」
慌ててリューの元へと駆け寄れば、俯いていたリューの顔が上がり目があった。やっぱり少し顔色が悪い…。
「……、魔力、不足…休息」
魔力が足りないから休む…ってことかな?
「思った以上にミツキの魔力が多過ぎて封印するのにほぼ魔力をつぎ込んだからな…。
私でさえこの有様だ。私よりも魔力の少ないオリュースが魔力欠乏症になるのも無理はない。
会議まではまだ時間がある。オリュース、隣の部屋で休んでいろ」
「…感謝」
そう呟くとオリュースはふらりと立ち上がり、よたよたと扉の方へと歩いていく。
足取りが!見てるこっちがハラハラするよ…!
魔力欠乏症?って、休んでたらなんとかなるものなのかな…?
「りゅー、ねたら、なおりゅ?」
「…是。心配、不要。……感謝」
心配で下からリューの顔を見上げれば、大丈夫だから心配するなと返された。でもありがとう、とも。
「うん!ゆっくりやしゅんでね」
私がそう返すと、リューは一度だけ私の頭を撫でてまたよたよたと歩き出した。
リューが隣の部屋へと移動し扉が閉まると同時に、エドさんが珍しいものを見た、と言わんばかりに声を上げた。
「…まさかオリュースの単語会話を理解しているのか?先ほどあったばかりだろう…?」
「あーー、やっぱ驚くよなぁ。俺もさっき驚いた。なんでかしんねぇけど会話できてんだよな…オリュースも最初驚いてたぜ」
やっぱりリューの単語会話って通じる人少ないのかな…?確かに単語だけだしその単語すら短くて間の文がわかんないもんねぇ…理解するのに結構時間かかりそうだけど…
「でもな、オリュースにミツキなんて言ったと思うよ?目が素直だってよ!俺はアイツの目を見てても理解できない自信があるね」
「目が素直…?ミツキは面白いことを言うな」
なんだか会話の方向がおかしくなって来てない…?ちょっとバカにしてるでしょ??
ほんとにリューは目が素直なんだからね!すごい饒舌なんだから!!
むぅ、とむくれると気づいたルドが面白そうに頬を突いてくる。
「なーにむくれてんだ?おら、封印もできたし風呂はいんぞー。全身綺麗にしてやっからな!
エドイア、ここの風呂借りんぞ。あとラーナにミツキの服頼んだから、もう少しでこっちに届けにくると思うから対応任せていいか?」
「あぁ、請け負おう。どのみち私も少し休んで魔力を回復させねば動けんからな…執務室にいるから風呂が終わったら来い」
「りょーかい。ほんじゃま、ひとっ風呂行ってくっか、ミツキ」
「あい!」
ルドの声に元気よく手を上げて答えると、笑いながら抱き上げられた。
そんなに風呂が嬉しいのか?って、そりゃそうだよ!
汚れも落としたいし、あわよくば脱衣所に鏡が付いてるなら姿も確認しておきたいし。
んーー、この世界のお風呂ってどんなのなんだろ?楽しみだなー!
そんなわけでルドに連れられ執務室の隣にあるお風呂場へ向かったわけですが…。
結論から言おう。
幼児の姿、メッッチャ不便…!!!
いやね、手が小さいからかこの体に私がまだ慣れてないからかわからないけど、とにかく自分の体が洗いづらい!
見かねたルドに丸洗いされるほど。
お風呂場は浴槽のないシャワールームだったけど、日本と作りはあんまり変わらなかった。
だから使い方もなんとなくわかったけど…そもそもお湯を出すための蛇口が力がなさすぎる私にはひねれない!
当然のように洗ってくれようとするルドに1人でやりたい!と駄々をこねて見守ってもらうだけにとどめたけど、結局は洗ってもらってしまった…。
いくら幼児の体だとしてもさ、私一応中身は成人済み女性な訳でして…ね?
羞恥心との戦いに心がバッキバキに折られましたわ。
服の上から触られるのとはわけが違うんだよー!
ちなみに脱衣所にも風呂場にも鏡はなかったので姿の確認はできなかった。
ただ、洗い終わったあとルドがものすごく驚いていた顔で私を凝視していたから、自分の今の姿が気になってたまらん…
とりあえず新しい服が届くまでは、とタオルでぐるぐる巻きにされた。
確かに今まで着てたボロ布?をもう一度着る気にはなれないもんね。
そのままルドに抱っこされて執務室まで運ばれました。
執務室へ行くと、エドさんとリューとラーナさんと、もう一人、知らない男の人がソファに座って歓談しているところだった。
その人はアッシュグリーンの髪を右耳のあたりだけ刈り上げて横に流し、露出した耳にはいくつものピアスが付いている。
上着のボタンは上3つが開いていて鎖骨どころかがっつりの筋肉のついた胸も見えていて、首元には細い鎖のシルバーアクセサリーが存在感を放っていた。
なんというか…不良の制服着崩し、みたいな感じだ。
ただやっぱりというかなんというか、お顔の造形美は素晴らしく綺麗。
少しやんちゃしている青年って感じでなんだか格好いい。
ものすごく厳つい不良のような男の人を思わずガン見していると、私たちの入室に気づいたその人が私を視界に入れるや否や、嬉しそうにソファから立ち上がった。




