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「るど、いまからえどしゃんのとこにいくの?」
「あ?あぁ…ちょっとしたおまじないをしに、な」
「おまじない?」
ルドの口から何だか可愛らしい言葉が出てきたので首を傾げる。
さっきエドさんと話ししてた時は封印がどうの、って言ってたけどまた別のことなのかな?
魔力源とか魔力放出とか色々な単語が出てきてたけど、この世界の住人じゃない私にはさっぱり。
わかったのは私はたくさんの魔力を持っていて、それを放出してるってことぐらい。
その魔力を放出してることによって何が起こるのかとかはエドさん達との会話では分からなかったし、何より情報が少なすぎたのもある。
「そうだな…俺の口から説明してもいいが、俺もそんなに詳しく話せるわけじゃねぇ。
どうせ専門家のとこに行くんだ、エドイアに聞いてみな」
「きいていいの?」
何だか物々しい雰囲気だったからあの時は聞くのをためらったのだけど。
説明してもらったとしても理解できるかは分からない。だって私にとっては本当に未知のものだから。
少し不安が透けて見えるような声音で問えば、ルドはんーと少し考えたあと、大丈夫だろと頷いた。
魔法塔に着くと入口のすぐそばに誰かが立っていて、私たちに気づくと片手を挙げゆっくりとこちらに向かってきた。
目の前まで来るとそのままピタッと停止し、なぜか無言で見つめられる。
え?なに?なんか私凄いみられてない…?
私から一切目を逸らさずに凝視してくるその人は、耳にかかる程度の暗い藍色の髪が落ちてくるのを気にも止めない。
目下まで伸びた長い前髪からチラリと覗く金の瞳は心なしか弾んでいるように見えた。
「よぉ、オリュース。迎えに来てもらっちまって悪いな」
「…部屋、認証」
「そうなんだよなぁ、すまんが頼む。どうせお前も参加すんだろ?」
「…是。魔力不足、失敗」
「まじか、そこまでか。
まぁ確かに保険はあったほうがいいかもな…」
ルドが声をかけると、オリュースと呼ばれた人の視線がようやく離れた。
目の前で繰り広げられる会話が成り立っているのが不思議すぎる…オリュースさんは全部単語で話してるんだけど、ルドってばなんでもないように会話を繋げてるから、言いたいことは理解できてるんだろうなぁ。
オリュースさんの言葉に感情は乗っていないから声色を聞いても全然わからない。
凄いなぁ、なんてちょっと関心していると、離れていた視線がまたこちらに向けられた。
「……」
「…?」
またもや無言で見つめられる。なんだろ?何か言いたいことでもあるのかな…?
ピクリとも動かないオリュースさんの表情筋とは反対に、ジッとこちらを見つめる金色の目はキラキラ輝いていて、何だか凄いものを見つけた時の子供みたいな目だな、なんて思ってしまう。
好奇心だとか興奮だとかがありありと伝わってきてちょっと戸惑う。
目は口ほどに物を言う、とは言うけれど…まさかそれを体験するとは。
「えと、はじめまして!みちゅきといいましゅ!おりゅ…おりゅーすしゃん?」
てことで初めましての基本の自己紹介から。
第一印象大事!と言う信念をもとに、ニコニコ笑顔も付随させています。よろしくね!!
「…魔法塔部隊、副部隊長。……名前、リュー」
「りゅー?」
むむ、まさかの副部隊長さんとは!ってことは、エドイアさんの次に偉い人?
単語会話、意味わかるかなぁ?とちょっと心配していたけれど、なんだかオリュースさんの金色の目を見ていれば不思議と言いたいことは伝わってきていた。
私が名前呼ぶとき噛んでたから呼びやすいようにリューでいいよって言ってくれたみたい。
うわぁ、ここの砦の人たちって本当に優しいなぁ…
「りゅー、ありがと!」
嬉しさを前面に出しながらニパッと笑うと、こちらをジッと見ていた金色の目が僅かに見開いた。瞳の奥には少し動揺が見えて、なんでだろう?と不思議に思っているとルドが驚いたように声を上げた。
「ミツキ、お前オリュースの言いたいことわかんのか?」
「え?うん、りゅーのおめめとってもしゅなおなの!」
私リューの目を見ながらだったら単語会話マスターできる気がする。
「俺でさえ理解すんのに結構時間かかったんだが…」
「…初」
「え?りゅーいわれたことないの?こんなにしゅなおなのに!」
ルドは微妙な表情で眉根を寄せているし、リューはそんなこと言われたのは初めてだと困惑している。
そんなこと言われても。分かっちゃうものは分かっちゃうのよ。
「ほんとに理解してやがる…野生の勘か?」
呆れたように呟いたルドの言葉はまるっと無視しました。
魔法塔の入り口で思ったよりも時間を食ってしまったと急いでエドイアさんの研究室まで来ると、壁や床と同じような黒の扉が私たちを出迎えてくれた。
ルドが目の前にある黒の扉に手をつくと、扉に金色の模様が浮かび上がる。次いでリューが同じように手をつくと、じわじわと広がるその金の模様を追うように端から紫へと変わっていった。
全て紫色に変わったことを確認してリューが手を離すと、一瞬にして模様が消えて元の黒一色の扉に戻る。すごい、どういうギミックなんだろ?
「入れ」
扉のギミックに目を瞬かせていると中からエドさんの声が聞こえた。
促されるように扉をあけて中に入ると、中は執務室のようになっていて壁一面にはぎっしりと本の詰まった本棚が並んでおり、床にも何かの書類やらメモやらの紙切れがいたるところに積んである。
部屋の中央に置いてある執務机で何か作業をしていたエドさんが顔を上げ、部屋に訪れた私たちに目線を移すと、遅かったな、と声をかけられた。
「ちょっとな。で?準備はできてんのか?」
「ああ。最終確認も先ほど終わらせた。不備はないはずだが、これほどまでの魔力を封印したことはないからな…私の魔力だけで足りるかどうかわからなかったから、オリュースを呼んだのだ」
「それはオリュースから聞いたが…エドイアの魔力ですらたりねぇかもしんねぇとかやばすぎだろ」
「ミツキの魔力量はほぼ未知数だからな…時間が惜しい、早く始めるぞ。
流石にこれ以上の放出は何が起こるかわからないからな」
立ち上がったエドさんに案内され、私たちは奥の部屋へと移動した。
ストーリー進行が鈍行すぎますね、申し訳ない…
ですが多分これからもこのくらいの進行速度になりそうなので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
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自分の好みを詰め込んだだけの完全自給自足小説ですが、皆様の暇つぶしになれば幸いです




