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「あぁ。偵察に行ったヤグーナの森で保護した。ミツキから放出されてる桁違いの魔力が何よりの証拠だな。
それと、たった一晩足らずで魔力による森の急成長、魔物の上位進化も確認した」
「ふむ、周囲に魔力変化を強制させるほどか…なるほど、興味深い。
それ程までに膨大な魔力を放出しているにもかかわらず、本人はいたってケロっとしているが…君は本当に何も感じないのか?」
エドイアさんが愉快そうに口の端をあげ翡翠の瞳をキラキラと輝かせてこっちを見るものだから、思わず首を傾げる。
魔力源…って、なんだろ?
え、てか私、魔力持ってるの?そんで放出してるの?
しばし考え、それから自分の体をジッと見下ろす。
んー、自分の体に不調というか違和感は感じない。そういえば朝から果物しか食べてないから、お腹減ったなーってくらいかな?
「ミツキ?」
「…ん〜、なんにもかんじないの…ごめんしゃい」
お腹をさすっているとルドが心配そうな視線を向けてきたので、慌てて異変はないと告げた。
ごめんねぇ、役ただずな意見で…
「そうか…これだけ放出しても未だに体に不調が出ていないのなら、魔力容量は恐らく私を軽く超えているな。」
「…魔法塔部隊長であるアンタを、か?どんなバケモンだ、そりゃ」
「そうでなくては我々が駆り出される程の案件ではなかったろう。
量も量だが、純度なぞここ1000年の最高値を優に超えている。
…流石にこのまま放出し続けると危険すぎるな」
なんだか物々しい会話が飛び交っていて何が何だか分からないけど、私の今の状態が良くないってことなのかな?
でも、魔力を放出?している感覚もないし、そもそも魔力を持ってる感覚もない。
元々は魔力とかファンタジーな力とは無縁の世界にいたのだから、いきなり魔力を感じ取れるわけないんだけども。
私のせいでいろんな人に迷惑をかけている気がしてすごく居た堪れないから、なんとか止まってくれないかなぁ?
むむむむむ…体にグッと力を入れて念じてみたけど変化なし。そりゃそうだよね〜。
感じられない魔力なんてどうやって止めるんだ!?
一人で百面相しながらどうにか魔力を操作できないか考えていると、ふと視線を感じて顔を上げた。
…えーっと、なんで皆さん私をガン見しているのですかね?
あ、もしかして私の百面相見てた?なに大事な話してるのに変顔してんだよ的な…!?
そして王子様よ、2人が言い合ってた時寝てたの知ってるんだからね。なんで今はなんでもないような顔してこっち見てるのさ!
3人からの視線が強すぎて、私は逃れるように愛想笑いで誤魔化した。
「…君、名前は」
「ふぇ?えと、みちゅきでしゅ!」
エドイアさんにそう問われ、そういえば自己紹介してないことに思い当たり背筋を伸ばして名前を告げた。
…相変わらずツが言えてませんが許してください。幼児の舌はいっぱいいっぱいなんです。
「ミツキ、だ。舌がまわんなくてうまいこと言えねぇんだよ。」
ルドが間に入ってくれたのできちんと自己紹介をすることができた。ついでによろしくね、と笑ってみる。
「ミツキ…なるほど、覚えておこう。
私はエドイア、魔法塔部隊の部隊長だ。
管轄は魔法全般だから、ミツキの魔力調査を受け持つことになるだろう」
「よろしくおねがいしましゅ、えどいあしゃん!」
「ミツキ、僕の名前も覚えてねー?フェリスタード。守衛塔部隊の部隊長だよー…んー、長くて言いにくそうならフェリでいいよ?」
「んと、じゃあふぇりしゃん!」
「フェリ、でいいよー」
有無を言わせぬ笑顔とはこのことでしょうか。
顔をグッと近づけられ整ったお顔がすぐ目の前にきて、思わず観察してしまった。
お肌綺麗…なにこれ、スベスベェ…!
あ、いや、何でもないです。わかってます。
「…ふぇり?」
「うん、良くできましたー」
もう一度言い直すと、嬉しそうに笑うフェリに優しく頭を撫でられた。
王子様スマイル大盤振る舞いです。キラキラで目が潰れそうー!
「ならば私もエドでいい。」
フェリの輝き?から両手で顔を覆って目を守っていると、エドイアさんからも呼び方修正のお声がかかった。
エドイアさんのお膝の上で手は顔を覆ったまま、指の隙間からチラリと瞳をのぞかせてエドイアさんを見上げた。
あぅ、前向いても上向いてもキラキラが…!
「えど、しゃん?」
さすがにこんな儚げな美人さんを呼び捨ては出来なかった…
お伺いをたてるように覗き込めばふわりと柔らかく微笑まれて私はあえなく撃沈した。
美人さんの微笑みは心臓に悪いよ〜〜!!




