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「もぉー、うるさいよルドヴィックー。
また門凹ませちゃってさぁ…あとで怒られるの僕なんだよぉー?」
声とともに門が開かれると、美形のお兄さんが大きな欠伸をしながらよたよたと出てきた。
この人も物凄い美形さんだぁ…絵本に出てくるような王子様をまんま再現したみたいな、スラリとした長身の金髪碧眼さん。
服装はさすがにルドと同じ軍服のような服だけど、こちらは金の刺繍じゃなくて緑の刺繍が入っていた。
「ほぁ…きれー」
「…ぅん?あれ、君だぁれ?ルドってば今回誘拐の任務だったのー?」
ぱちぱちと瞬きした目が合ったと思ったら、とんでもないことを聞いてきた。
ゆ、誘拐!?されてないよ!同意だよー!
「あぁ!?んなわけねぇだろ、保護したんだよ!昨日から騒ぎになってた魔力源だっつの」
「えぇ〜この子がぁ?確かにすごい魔力感じるけどぉ…なんか心地いい魔力だねぇ〜。眠くなっちゃう…ふわぁ〜…」
「おまっ、嘘だろ!?オイここで寝んじゃねぇ!起きろ!いいからさっさとエドイア呼んでこい!」
突然立ちながら寝だした王子様の肩を掴みガクガクと揺さぶると、またぼんやりと目を開けてルドを見上げた。
「なんで魔法塔部隊長…?報告なら総部隊長じゃないのー?」
「…話はあとだ、とにかく急いで呼んでこい。走れ!」
「んもう、ルドヴィック人使い荒い…」
ルドに急かされた王子様は渋々と門の中へと走っていった。
おー、速い。あっという間に姿が見えなくなってしまった…
それにしても、ゆる系天然王子様…なるほど、この世界の人たちはキャラ濃いなぁ。
騒ぎを聞きつけたのか、何人かの人たちが門の中からこちらをチラチラ伺っていた。
悪意のある視線ではないし、どちらかというと好意的な視線ではあったから苦にはならない。
まぁ注目されてるってことに羞恥心はあるけどね…なんだかパンダになった気分よ。
思わずこちらを見ている人たちにそろりと小さく手を振ってみる。
「…ぅおお」
みんな輝く笑顔で手を振り返してくれた。
なんていい人たちなんだ…!!
反応を返してくれるのが楽しくて今度は大きく手を振っていると、ルドにギュッと抱きしめられた。
なになに、どしたのルドさんや?
「るどー?」
「…アイツらに見せたら俺のカワイイさんが減る」
いや、減らないよ…?
そういえばルド、ちょくちょく私のことカワイイさんって言ってくれるけど、普通に可愛いって意味なのかな?響きが独特でかわいいなーって思ってたけども。
あれ、なんか可愛いがゲシュタルト崩壊しそう…?
「るど、かわいいしゃんってなぁに?」
「あ?そりゃ"愛し子"っつー意味だ。ま、そんな神聖的なもんじゃねぇが…ミツキが可愛くて可愛くてしゃーないっつーことだよ」
そう言いながらルドにもう一度ぎゅーっとされる。
む、そこまで直球で言われると照れるではないか…ふふふ。
確かにプニプニの子供って可愛いもんねぇ…
この体になったからか恋愛的な感情をルドに持つことはないけれど、なんだかお父さんが出来たみたいで。
いいなぁ、ほんとのお父さんって、こんな風に愛してくれるのかな…
抱きしめてくれるルドの体温が心地よくて、私も思わずルドの首に腕を回して抱きしめ返した。
「わたしもるど、だいしゅき!」
「っ、ミツキ〜〜〜!こっのカワイイさんが!!俺のことどうする気だ?ぁあ?」
2人でわちゃわちゃしていたけど、周りの人の視線なんて気にしないよ!たとえ生温い視線がこちらに向いていても、私は何も見なかった!
「…それで?私を呼んだ理由は察したが、その状態はなんだ」
目の前の人から呆れたような氷の視線を受けても、私は愛想笑いを返す他なかった。
イヤだって…わたしもなんでこうなってるのかわからないんですもん…
私が今どこにいるかというと、人目が多いからと案内された砦の中の応接室?の、椅子に座るルドと王子様の膝の上を行ったり来たりしております。
それはもう凄まじい勢いで。
ルドのお膝に座ったと思ったらいつのまにか王子様のお膝にいて、そうだと思ったらまたルドのお膝にいて…あれ?なんか頭がぐわんぐわんしてきたぞー…?
「フェリスタード!てめ、何勝手にミツキを膝に乗っけてんだ!返せ!」
「ルドヴィックうるさいよぉ〜。さっきまで抱っこしてたんだから膝に乗せるくらい僕に譲るべき。」
「あ?なんでお前に譲んなきゃならねぇんだよ。お前こそ子供愛でる性格じゃねぇだろうが」
「この子は特別。なんか心地いい魔力出てるから抱っこしたらよく眠れそう…」
「ミツキを抱き枕がわりにすんじゃねぇ!」
…という言い合い?を永遠に頭上でされ、取っ替え引っ替え膝の上を行き来しております。
魔力?とか抱き枕?とかいろいろ聞こえるけど、とにかく安定して座らせて…!
「…う?」
「まったく、くだらないことをしてないで話を進めろ」
最終的に争いを止めたのは、先ほどまで冷めた視線をこちらに向けていた美人さんだった。グイッと脇に手を差し込まれて抱き上げられる。
うひゃ、綺麗なお顔がドアップに…!
薄紫色の腰まである柔らかな髪を後ろに流した、綺麗な翡翠の瞳の美人さん。
すごく儚げでぱっと見女の人にも見えるけど、私の勘が言っている。この方は男の人だと…!
いやまぁ勘というか、抱き上げてくれた手が男の人の手だったからわかったんだけども。
声も割と低めの落ち着いた声だから、話すとちゃんと男の人だとわかるのだ。
「エドイア!お前もか!?」
そのままエドイアさん?のお膝に着地した私はやっとこさ一息つけたけど、それを見たルドがなぜかすごく不機嫌そうに眉を寄せてエドイアさんを睨んでいる。
…ルドさんや、何がお前もなんですかね?
「その発言の意図を問いただしたくはあるが…まぁいい、時間が惜しい。
さっさと本題に入るぞ」
言い募るルドにエドイアさんは絶対零度の瞳でぴしゃりと切り捨てた。
…おぉ、部屋の気温が下がった気がするぅ…
「…それで、 この子供だな?世界を揺るがした魔力源は。」