第一話 【HAPPY】
「ハッピー バースデー トゥー ユー」
誕生日ケーキの上にある15本のろうそくに火をつけて部屋を暗くする。ろうそくの火の灯りがやわく辺りを照らす。
「ハッピー バースデー トゥー ユー」
少年は誕生日ケーキの前に座り直し、火の灯りを見つめる。
「ハッピー バースデー ディア 亮誠」
亮誠は誕生日ケーキの上に乗ったイチゴを数え、何等分にするか考えた。
「ハッピー バースデー トゥー ユー」
その言葉の後、亮誠は息を吹き、ろうそくの火をひとつ残らず消した。途端に辺りが真っ暗になる。
亮誠は立ち上がり、スイッチを押し、電気をつけた。真っ暗だった部屋から一瞬で明るくなった。
ぼやけた目を擦り再び目を開けると、ケーキの全貌が見えるようになった。至って普通のショートケーキ。消えたろうそくが15本で、イチゴが6つ。六等分にすると丁度いい。そう考えながら席に戻る。
「お誕生日おめでとう。亮誠」
自分の口元で聞こえたその声は、ひとりしかいないリビングにはよく響いた。
12月1日、星野亮誠の15回目の誕生日、六等分されたケーキを彼はひとりで食べ切った。
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窓側の席でひとり、卒業文集の作文に取り掛かっている亮誠は昼休みの校庭ではしゃぐ生徒を見ていた。作文用紙には「将来の夢」という題と、クラス、出席番号、名前しか書かれていない。
「あらら、まだ書き終わってなーいの?ぼっち君」
窓から外を見つめる亮誠のもとにひとりの少年が近付いてきた。その少年は亮誠の作文用紙を持って亮誠に言った。
「期限、明後日までだよ。大丈夫なの?」
また学級委員に言われちゃうよ、などと言う少年を無視して、別に、と答えた。
「大丈夫でしょ。多分。てか、悠馬は出したの?」
悠馬と呼ばれた少年はまあね、と答えたあと亮誠に質問をした。
「リョウはサッカーもうやんないの?スポーツ馬鹿だったじゃんか。それに、医者の夢も諦めたの?」
亮誠の過去についての話をし始めた悠馬の声に亮誠は、自分の名前までしか書かれていない作文用紙を見つめながら俯いていた。その表情は頬杖をついていた手で隠れていて見えなかった。
「どうせ、こんな学生生活なんて時間が経てば忘れちゃうし、目を瞑れば日常なんて消えちゃうだろ」
そう、夢も、人間も、言うなれば世界も。
「どうせ忘れるなら、消えるなら、どうでもいいんだよ」
「アニメの見すぎか、かっこつけすぎ」
夢なんて要らないよ。何も幸せじゃない。
この世界は…。