8話『第五小隊』
お久しぶりの更新です。
千里は倒れてから五分ほどで回復した。
「うっ……ん?」
後頭部に感じるのは柔らかい感触。
それは千里が今まで感じたことのないものだった。
「起きたの?」
「…うぉおおおお!!!な、なんでキルナが膝枕っ…!?」
「頭が痛そうだったからつい…」
無表情でそう言ったキルナ。
千里は思った、この子は他の人と感性がズレていると。
「と、とりあえずありがとう…助かったよ」
「いいえ。それより、私は貴方に興味があるわ」
「へ?」
変なことを言い出したキルナ。
突拍子もないことを言うのがこの子の性格なのだろうと千里は考える。
「貴方、戦闘経験はあるの?」
「え?ま、全くないけど…」
「全くない人があそこまでの戦いをどうしてできたの?」
「そう言われても俺には…」
真っ直ぐな台詞と視線に耐え兼ねて目を背ける千里。
神様から能力を教えてもらったからと言うのも何だか卑怯な気がして言えなかった。
「まあいいわ。それより起きたのなら早く行くわよ」
「あ、ごめん!…どこに行くって?」
「グラディアスが私たちの所属する隊を発表するから、王室に行くのよ」
「なるほど…って、もう所属先が決まったのか?」
「そうみたいね。多分あの人は戦闘が始まる前からどこに所属させるか決めていたみたいだけど…」
つまり、無駄な戦いだったと言うわけだ。
グラディアスはこの世界でトップクラス並みの強さを誇っている。
そのグラディアスからすれば他人の力量など一目で分かってしまう。
「ま、マジかよ…はぁ。それ聞いたら余計に疲れたぞ…」
「いい運動になったからいいんじゃないかしら。ほら、行くわよ」
「あぁ…」
気怠さを隠しきれない千里はため息を吐いてからキルナの後についていった。
王室にはすでに勇者達が集まっていた。
「よぉ、遅かったな千里。キルナの膝枕はどうだったよ?」
「な、何言ってるんですか!」
「照れるなよ分かりやすい奴だな」
「そ、それより俺たちの所属先が決まったって本当なんですか?」
部が悪いと感じた千里はすぐさま話を逸らした。
「そうだ。他の奴らにはもう伝えてある。あとはお前ら二人だけだ。キルナには第二大隊に所属してもらう。千里は第五小隊だ」
「…分かったわ」
「はい…」
予想通り第五小隊に所属された千里は特に気を負うことなく話を聞いた。
「今日のところは一先ず休め。ディランと戦ってお前らも消耗しているだろ?明日から隊に加わって貰うからな」
グラディアスの提案に反論するものはいなかった。流石に疲労が溜まっているようだ。
それから明日の集合場所を聞いてからお開きになった。各自、王室を出て行く。
その際に千里はユリエスに引き止められた。
「ちょっといいかな」
「え?あぁ…なに?」
「そう困った顔をしないでくれ。ただ自己紹介をするだけさ。僕はユリエス。前の世界では勇者をやっていた。よろしく」
「俺は高良千里。戦闘経験とか無いけどよろしく頼む」
「もちろん。その件で分からないことがあれば僕に聞いてよ。ちゃんと教えるからさ」
「助かるよ」
それから少し話をしてユリエスは王室を出て行った。それに続いて千里も退室した。
廊下を歩いていると反対側から三人の女騎士が歩いてきた。
「ねぇ聞いた?召喚された勇者の一人が第五小隊に配属されるらしいわよ」
「そうなんですか。ユフィ様にもようやく後輩ができますね」
「ユフィ様いつも言ってたよな!私にも後輩がいればもっと頑張れるのにって!」
「そ、そうね…うん。私頑張るわ!」
と、意気込むのは赤毛でツインテールの美少女。敬語の女性は緑髪を腰まで伸ばした美女で、元気でボーイッシュな女の子は茶髪のショートカットが似合う美少女だった。
(うわ…なにあの三人。騎士にしては可愛すぎだろ)
関わると面倒くさそうと思った千里は顔を背けながら三人の横を通過した。
(ふぅ…何もなかった…)
「ちょっとそこの人!止まって!」
「え…俺か?」
「ねぇ!止まってよ!こら!」
「いや、違う俺じゃない…違うはずだ」
「ちょっとーーー!止まりなさいよっ!!!」
現実逃避して歩き続けていた千里だが、とうとう肩を掴まれて立ち止まった。
「あ…あぁ!俺のことだったんですか。あはは…」
困った顔で分かりやすい演技をする。
「嘘つきね!気付いてたでしょ!」
「そ、そんなことないですよ…」
「まあいいわ。それよりあなた、もしかして勇者?」
「え?あ、うん。一応そう…なのか?」
「ハッキリしないわねぇ…。じゃあさ、第五小隊に配属された勇者が誰なのか分かる?私的には黒髪の美人さんか、白髪の可愛い女の子が来て欲しいんだけど…」
赤毛ツインテールの美少女の話を聞いて千里は察してしまった。この三人が第五小隊のメンバーなのだと。
ここで嘘をついても仕方がないので正直に白状した。
「…すいません、俺です。俺が第五小隊に配属されることになった勇者です…」
「……え?」
その時の女の子の顔がとても残念そうだったのを、千里はきっと一生忘れることができないだろう。