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3話『小さな亀裂とトラウマ』

千里達が食堂に着くと中から喧騒が聞こえてきた。どうやら既に朝食を食べ始めているようだ。



「ごめん雪、遅れちゃったな」


「だ、大丈夫だよ。入ろ?」



2人で食堂に入ると、当然ながら注目を浴びた。



(うわっ、気まずいなこういうの…)



「千里君?行かないの?」


「あ、あぁ…うん」



注目されたことに驚き足を止めていた千里は雪に諭されて足を動かした。

食堂は高校の食堂に似た感じで、王城で働く様々な人が食事を取っていた。

もちろん、その中には千里達と共に召喚された他の4人もいた。



「なんか注目されちゃったね」


「そりゃそうだろ。昨日の今日なのに仲良くなってたら驚くもんじゃないか?」


「そ、そうかな?」



照れる雪と共に朝食を受け取る為にカウンターに行く。



「おっ、お前さんが昨日召喚されたっていう勇者か?」



カウンターの向こう側、料理人の男が千里に話しかけた。筋肉隆々の、外見だけなら戦士と間違えてしまいそうな男が料理人の格好をしていた。



「あっ、は、はい」


「そうかそうか。お前さん達には城の奴らとは違うメニューをご馳走しろって王様に言われてるんだ。俺の得意料理、ワイバーンの肉丼だ。ほら」



料理人の男に渡されたのは牛丼に似た丼ぶりだった。



「ありがとうございます。美味しそうですね」


「俺が作ったんだから美味しいに決まってるだろ?あ、そうだ。俺の名前はガット、よろしくな勇者」


「よろしくお願いしますガットさん。俺は高良千里って言います。千里って呼んでください」


「あ、あのっ、私は雪って言います!よろしくお願いしますガットさん!」


「千里に雪ちゃんか!よろしくな!食べ終わったら俺のところに持ってきてくれよ」



千里と雪はガットに礼をしてから適当な席に座る。



「いただきます」


「いただきます!」



2人で同時にワイバーンの肉丼を頬張る。すると、雪が目を輝かせた。



「おっ、おいしい!」


「本当だ、牛とか豚とか比べ物にならないな!柔らかくてすぐ口の中でとろけるぞこれ!」


「幸せだよ〜」



雪の顔がトロトロになり、千里はバクバクと口に運ぶ。周りの事なんか御構い無しに食べ続ける。



「ちょっとぉ〜、ねぇ?聞こえてる?」


「うっま、美味すぎるだろこれ」


「やみつきになっちゃったかも…」


「ちょっと!おーい!」


「んぐんぐ…ん?うぉ!!?」


「やーっと気付いた。さっきから声掛けてるのに酷くない?」



ワイバーンの肉丼を水で流し込んでいた千里の前に、魔法少女のリーナが呆れ顔で立っていた。

千里は仰け反った姿勢のままリーナを見つめる。



「な、何か用でも?」


「うん。用っていうか伝言?伝えたいんだけど、その前にそこの白い子に食べるのやめるように言ってくれない?」


「え?」



リーナの指差す方には、ワイバーンの肉丼を幸せそうに食べる雪がいた。

白い子…というのは雪の白いショートカットの事を言っているのだろう。



「あ、あぁ悪い。雪、おーい?」


「はむはむ…ふぅ?…ふぁ?!」



千里の呼びかけに反応して顔を正面に向けた雪は、呆れ顔で立っているリーナを見てビクッと震えた。



「はむ…ふむっ!……ごくっ…ご、ごめんなさい!私…」



急いで口の中の物を胃に流し込んだ雪は立ち上がるとリーナに向かって頭を下げた。



「いいっていいって〜。それより王様から伝言ねー。朝食を食べたら王城の一階にある兵士訓練場に来てね。伝えたからリーナはもう行くよ」


「さ、サンキューな」


「ありがとうございます…」



リーナは手をヒラヒラさせながら食堂から出て行った。その時、リーナが鋭い目で雪を見ていることに千里は気が付かなかった。



「兵士訓練場か…場所知らないからガットさんに聞くしかないか」


「せ、千里君…」


「ん?どうした雪…って、何で泣いてるんだ!?」


「うぅ…」



雪が何故か目から大粒の涙を流していた。

千里は突然の出来事に狼狽える。



「どうしたんだよ雪、何かあったのか?リーナに何かされたのか?」


「ち、違くて…ぐすっ……私、リーナさんに嫌われた……ぐすっ」



ブルブルと身体を震わせる雪。

先ほどのリーナの目を思い出して、雪の中にあるトラウマが蘇る。


「そ、そんなことないって、リーナも気にしてなさそうだったし…」


「…そんなの本人にしか分からないよ?嫌われちゃったら…また…嫌われちゃったら…」


「…ゆ、雪?」


「…ごめんなさい千里君!」


「雪っ!?おい!?」



雪は泣きながら走り去ってしまった。

呆然とする千里は静まり返った食堂で冷静に考える。



(雪のあの過剰なまでの怯えよう…。前の世界が原因か……?)



「どうした千里!雪ちゃん泣きながら走って行ったぞ?」


「ガットさん…」



千里はガットに事情を話した。



「そうか。……とりあえず食器は俺がかたしておくから、千里は雪ちゃんを追いな」


「でも…俺が行ったところでどうにもならないですよ…」


「別に何をしろってわけじゃない。友人が…千里が近くにいることで、雪ちゃんの助けになるかもしれないだろ?」


「……分かりました」



千里はガットに頭を下げてから走って食堂を出て行った。



「勇者っつってもまだ子供なんだよな。俺らの世界のために別の世界から召喚されて……すまねぇな千里」



ガットの独り言が静かな食堂にスゥーと消えていった。

ガット…筋肉隆々の坊主のお兄さん

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