2話『雪と謎の小鳥』
魔王討伐に同意した千里達。グラディアスに今日の所はゆっくりしてくれと言われ各自部屋に案内された。
「はぁ…なんか大変なことになったな…」
案内された部屋の大きなベッドに寝転がり、千里はポツリと呟いた。
召喚された中で唯一なんの力も持たない千里は、これからの身の振り方について考えていた。
「何もできないしなぁ…。つーか普通の男子高校生が異世界の魔王なんて倒せるわけないだろ…。前に出ないで後ろから適当にサポートしてればいいかな」
とは言うものの、本当にできる事がない。
千里はこれといって得意なことがない。だがその代わり、苦手なこともないのだ。
器用貧乏という言葉がピッタリと当てはまる。
「あの、せ、千里君いますか?」
「へ?あ、はいはい今出ます!」
思考を止めて控えめにノックされたドアを開く。
ドアの向こう側には雪が立っていた。
「休んでいたのにごめんなさい、少しだけお話いいですか?」
「ああ、暇してたから大丈夫だよ。ど、どうぞ」
「お邪魔します…」
可愛い女の子を自分の部屋に招く、という状況に少しテンパる千里。
地球にいた頃は一度も彼女ができた事がない千里にとって、女の子を自分の部屋に入れるということはかなりの勇気が必要だった。
雪は少しウロウロしてから椅子に座り、千里はベッドに腰掛けた。
「そ…れで、話ってなんのこと?」
「ええと…千里君って何か特別な力を使えたりするの…かな?」
「いや、使えないな」
「え?そ、そうなの?小鳥さんに聞いたら千里君は力を持ってるって…」
「小鳥…さん?」
首をかしげる千里に、雪は近寄るとどこかに隠していた白い鳥を肩に乗せた。
「この子がね、千里君は能力者だって言ってるの」
「そ、そうなんだ…。え、雪は鳥と会話できるの?」
「うん、私は人間以外の生物と話す力があるんだ。この子は私の部屋に入り込んでいた小鳥ちゃんで、隣の部屋の男は能力者だ…って教えてくれたの」
小鳥の言う事が正しければ、雪は千里の隣の部屋で、千里には何か特別な力があるということになる。
しかし千里自身、自分のことが分からない。
もし本当に千里が能力者だとして、それを確かめる手段があるわけでもない。
「ごめん雪、俺は自分が能力者なのか分からないんだ…」
「あっ、ううん!大丈夫だよ?ただ小鳥さんがね、隣の部屋の能力者はとんでもない事件に巻き込まれるって言っていたから…少し心配になっちゃって…」
「ま、マジか……その小鳥は一体なんなんだ?」
「うーん、ただの小鳥さんじゃないのは確かだけど…教えてくれないみたい」
「そうか…うん分かった。ありがとう雪、気を付けて生活するよ」
「ぜ、全然だよ!お役に立てたのなら良かったかな。…そ、それじゃあね千里君」
雪は話し終えると少し慌てて部屋を出て行った。その時顔が赤かったのを見逃さなかった千里は少しホッとした。
「雪も緊張してたのか…よかった、俺だけが緊張していたわけじゃなくて」
それから、雪に忠告を受けた千里は部屋から出ずにその日を終えた。
次の日の朝、ドアをノックされる音で千里は目を覚ました。
「お、おはようございます千里君。朝ごはんの準備ができたみたいだよ…」
ドア越しに控え目な雪の声が耳に届く。
「ふぁー…あ、ちょ、ちょっと待ってて!」
寝ぼけていた頭がどんどん覚醒していった千里は雪を待たせまいと急いで準備する。
ドタッバタッガンッ
「せ、千里君!?そんなに急がなくても…」
「はぁはぁ…お待たせ。い、行こうか」
「う、うん、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!お腹空いたから早く朝ごはん食べたいな!」
テンパりながら歩き始めた千里は少し進むと足を止めて、後ろにいた雪の元に戻って行く。
「どうしたの千里君?」
「えーと…朝ごはんどこで食べるの?」
「へ?」
呆けた顔になる雪。
千里は恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。
「ふ、ふふふっ…」
「なっ……わ、笑わないでくれよ…」
「ご、ごめんさいっ…でも千里君おもしろくて…ふふっ」
口を押さえてクスクスと笑う雪を見て、千里はこういうのも悪くないな…と思うのだった。
「わ、笑っちゃってごめんね?」
「そのことはもういいから!…案内頼んでもいいか?」
「ふふっ。うん、こっちだよ」
その後、ようやく笑うのをやめてくれた雪に連れられて王城の食堂に案内される千里だった。
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