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始まりの始まり

むかーし、むかしから、正義のあるところに必ず悪が存在する。

誰もが一度は聞いたことのある、おとぎ必ずヴィランが存在する。

言い方を変えれば、悪が無ければ正義は輝かない。

悪こそが正義!

そう言っても過言ではないのではないのだろうか?

それにも関わらず、いつの時代もこの世はヒーローばかり脚光を浴びている。


何故だ?一体何故なのだ?


僕は賑やかな街中を通り抜け、人通りのない寂しい路地裏に入っていく。


街のあちらこちらところには正義の味方になるための施設で溢れているが、こうした寂れた路地裏にひっそりとたたずむ施設。

それこそが、『ヴィランズ養成所』である。


僕は今日からここの生徒になる。




***************


「高杉、お前だけだぞ、まだ進路が決まらないのは…」

ざわつく放課後、担任に呼び出しをくらった。

中学三年生の冬のことだった。

この時期、誰もが自分の進路を決めなければならない。

ほとんどの生徒が自分のスキルを充分に生かせる『正義』を目指す、進路を選んでいる中で、僕の将来は白紙だった。


「すみません」

うだつの上がらない、言い方は相変わらずだった。

人から何を言われても、すみませんと言う言葉しか出てこない。

自己主張のできない、引っ込み思案の人間、それが僕だった。


「…明日までには提出するように」


これ以上何を言ってもろくな返事は返ってこないと諦めたのだろう、担任はクラス全員の進路調査表を持って教室を出ていった。


「高杉くんー」

幼馴染みの学級委員の白鳥ユキが僕の背中をこつんと叩いた。

「まだ進路決まらないのー?」

くるくると指を回して髪をいじっている。くるくると回していくたびに髪の色が変わる。

これが彼女のスキル。

触れた物の色を変えることができるのだ。

これだけ聞いただけだとたいしたスキルに思えないだろうが、中学三年の今の時点でこれだけのスキルがあれば充分だと言える。

クラスのほぼ全員が何かしらのスキルが現れてきているのに、今だに何のスキルも持って無いのがこの僕、高杉トキヤだ。

「このクラスで進路決まってないの高杉くんだけらしいよぉー」

キメの整ったまっ白な肌、大きな真っ黒の二重の瞳を見開かせ、小さな鼻をピクピクさせながら、彼女は言った。

「どうせなら、私と同じ青葉区正義養成所に行かない?」

行かない?と問いかける時点で、彼女はもう合格することを信じているのだろう。

青葉区の正義養成所と言ったら、養成所の中でもトップクラスと言える。


「僕は、多分…」

ヒーローは目指さない、とは言えなかった。

幼馴染みと言うこともあり、彼女には小さな頃から迷惑ばかりかけている。

地味で何の取り柄も無く、いじめられっ子の僕はいつも彼女に救われていた。

その度に僕がミジメな気持ちになっていることを彼女は気付いていない。

「どうせ、決まっていないなら、同じとこいこうよぉー」

彼女のまっすぐな瞳。

今までは彼女のこんな言葉も信じられていた。

だけど、今は…。

僕は彼女の悪意を知ってしまったから。

「うん、考えておく…」

そう言うしか出来なかった。



僕と違って人気者の彼女の周りにはいつもたくさんのクラスメイトがいた。

そんな彼女が何故僕を構うのか周りは不思議で仕方なかった。

僕は彼女のそんな優しさを本当の物だと信じていた。


だけど…。



「ユキって、何でいつもあんなモブ構うの?」

明日の課題を教室に忘れてしまったことを思い出して、取りに行ったあの日。

扉を開けようとして、人の声に気付き、手を止めた。

この鼻にかかる声は…、白鳥といつも一緒にいる真壁梓だ。

「えーーーー?そんなの決まってるじゃん」

クスクスと笑う白鳥の声。

「あの冴えないモブ男に優しくしてれば、私の好感度が上がるからに決まってるじゃない」

いつもと変わらない白鳥の声が全く知らない人物の声に聞こえた。

「あそこまで何の取り柄も無いモブ男って生きてる意味ないよねー」

「言い過ぎだよ、ユキー」

キャッキャッと笑い合う二人の声が耳に刺さる。


小さな小さな悪意だったけど、僕の心を壊すには充分な悪意だった。


正義と悪の違いって何だろう…?


********


僕がヴィランを目指そうと思ったきっかけは他にもあったけど、忘れた。


とにかく、今日からここで僕はヴィランを目指す。


何のスキルも持っていない落ちこぼれの僕は、今にも壊れそうな廃墟のような扉を開いた。


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