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~プロローグ~

「ふはははは!!勇者諸共!この星を消し去ってくれるわぁぁ!!」


「そんな事は、俺が絶対させない!この命をかけてもなぁ!」


……つまんねっ

世界的大ヒット作品、ドラゴムグエスト3をプレイしてみた感想だ。


「設定ガバガバだし、武器や防具なんかはスグに破壊されて使い物にならなくなるし、ヒロイン可愛くねぇし……」


そんな事を呟きながら、俺はベットの上に大の字になって倒れこみ、手に持っていたゲーム機を枕元に投げ捨てた。

その衝撃で、枕元から少しだけ埃が蔓延した。


「……そういや、自分の家に帰ってきたのって5年振りか。掃除もしないとな」


ドラゴムグエスト3の主人公が魔王を倒すまで故郷へ帰れないのなら、俺は自分の仕事が終わるまで、家に帰ってこれなかった。


農作業


そう、俺が昨日まで働いてた職場だ。農作業なんてご老人達と笑顔で畑を耕すだけの簡単なお仕事だと思っていた。……しかし、そんな淡い妄想はかき消されてしまった。5年前に。


5年前、俺【相川峻】は一般的な偏差値を誇る一般的な高校を卒業し、特に夢もなかったので大学に進学するのはやめて、毎年人員不足だと言われているアーカイブウェアという名の農家に就職した。

農家なんて、農業高校卒業をした者じゃないと就職出来ないと思っていたが、5分弱の面接と書類をカキカキしただけであっさり合格。


……だが、ここで疑問に思うべきだったのだ。あっさり合格出来たことに。


いざ働いてみて痛感した。確かに毎年人員不足にならざるおえないと。


「「「全ては社長の為に!全ては社長の農家の為に!」」」


これが元職場の教訓だ。全ては社長の為に、全ては社長の農家の為に。全くもってその通りだった。


会社のボロ屋敷みたいな寮に住み込み!そして、朝4時に起床!そこからクワで巨大過ぎる畑を耕すだけの簡単なお仕事!ブラック企業もビックリの深夜1時まで!休憩は朝食、昼食、夜食の計45分!休日は勿論なし!!有給?なにそれ?そんなのあるの?

……殺す気ですか?人権もモラルもクソもねぇ!!刑務所の方が幾分もマシだぞ!!!


みたいな会社だったんで、昨日正式にやめました。っつーより、逃げ出しました。バイトではなく社員なのに、バックれました。


「はぁ〜、良く5年も持ったよ。魔王退治とかの方が全然楽そうだ」


大の字になりながら、再びゲーム機に手を伸ばして再プレイを試みる。


「いくらクソゲーでも、全クリしないと製作者に対して失礼だと言うものだ」


そう、このクソゲーを作り出した製作者達だって、社畜のようにコキ使われて、寝る間も惜しんで作った作品だ。

社畜達の気持ちは、俺はよぉぉおく!分かっているつもりだからな。


ピンポーン


「……ん?」


社畜達の思いを感じ取りながら、ゲームの電源ボタンを押そうとした矢先、我が家のインターホンが何者かによって押された。


……今日はお客が来る予定はないのだが。


「まぁ、居留守安定ですわな」


今日は仕事から解放された特別な日なのだ。出来れば一人静かに過ごしたい!

……しかし、そんな思いは届く事なく、鳴りやまないインターホンに流石の俺も我慢の限界。


「誰だよ、全く……」


そう軽く呟きながら重い腰を上げる。立ち上がった衝撃で煙が蔓延するほど汚いこの部屋に、人なんて入れたくないのだが……。


「用件だけ聞いてお帰り頂きますか」


俺はドアノブに手を掛け、重い扉を開いた。


「はいはい、どちらさんで……」


おぅふ……。

そこまで言って、俺の口は閉ざされた。重い扉の先から姿を現したのは、元職場のアーカイブウェアの皆さんだった。


(うはー、やべぇ。社長さんまで来てるじゃないっすか……)


目の前には、アーカイブウェアの制服を纏った筋肉隆々の男が、こちらを睨むようにして仁王立ちしている。

そして、魔王のような風格を感じさせる巨体がその後ろに内股で立っていた。


「ちょっとちょっとちょっとぉ!!なぁ〜にぃ勝手に居なくなっちゃってるのよぉ!!心配しちゃったじゃなぁぁぁぃい!!!」


魔王(社長)が内股歩きでクネクネさせながら、こちらに迫って来る。200キロはあるだろうその身体と、ケバいを通り越して子供の落書きのようなバッチリメイクを決めた50後半のババアは、人を畏怖させるのには充分過ぎるぐらいだった。


「しゃ、社長!どうしてここに!?」


「どうしてもクソもないだろう!貴様が無断欠勤したからワザワザ探してやったのだ!」


ガンッ!!!

目の前の筋肉隆々な男は、イラつきを隠しきれない口調で我が家の扉を殴りつけた。その衝撃で、我が家の扉がハンマーで殴られたようにヘコんでいた。

嘘やん……人間やめちゃってるやん……。


「いやー……それはその、ですね。体調が優れなかったと言いますか……ははっ」


社長(魔王)とは違い、恐怖で内股になってしまっていた。人間、死ぬほど怖い思いをすると、涙目になりながら、両手を上にあげる降参のポーズを取ってしまうのは、もはや遺伝子レベルに刻み込まれてしまっているんだろうなぁ……。


「では何故!貴様は寮内で連絡しなかった!」


「そぅよぉ!!連絡してくれれば、看病してあげたのにぃぃぃいぁぁあ!!」


そう叫びながら、社長(魔王)は舌を犬のように垂らしながら、男顔負けのスピードで腰を振っている。

唯一、アーカイブウェアで仕事を休む事が出来る方法がある。それは体調不良だと会社に連絡する事だ。最初のうちは喜んださ、仮病で休もうとしたさ。

でも途中で気づいた。体調不良で休めば、この魔物(社長)に看病という名の拷問を受ける羽目になる。それは、勤労よりも体力を使い、とても……辛い事だ。


「なーんてね、怖がらせちゃったかしら〜?うふっ、もう体調も優れたようだし会社に戻りましょぉぉぉおぅん?」


魔物(社長)は、人間の範疇を超えた大きさの手で、俺の腕を鷲掴みにし、外に出ようとしていた。このまま魔物(社長)の言う通りに従えば、俺はまた、地獄のような農家生活を送る事になるのだろう。

……それだけは


「……嫌だ……」


「んぅぅぅん??何か言ったかしらぁぁぁあん?」


家から数メートル離れた所で、魔物(社長)は歩いていた足を止めた。手の力も緩まった。今が、チャンスだ……っ!!


「またあんな生活を送るのは!もう、嫌なんだぁぁあ!!」


俺は心の想いを叫びながら、魔物(社長)の手を振り払って家に立て篭もろうと必死に家まで駆け走った。

後少し……っ!後少しで家に!!


「おい」


しかし、俺の願いは叶わなかった。先程、我が家の愛しい扉をヘコませた筋肉隆々の男が、俺の腕をガッチリと掴んでいた。

絶対に逃がさないと言う気持ちがあるせいか、握力が、もう、ヤバい。死ぬ。腕もげるぅう!!


「貴様……社長に乱暴な事をしたな。社長を、泣かせたなぁあ!!!!」


ヤクザみたいな気迫のある顔が、より一層険しくなり、それに伴い握力も強くなる。本格的に腕の感覚が無くなってきた。腕もげるぅぅ!!言ってる場合じゃない!早く、どうにかせねば!


「ウ、ウォォォォォオン!!!ウォオオオン!!」


一方魔物(社長)の方は、俺に乱暴扱われたショックのせいか、ウミガメの出産のような泣き方をしていた。ただださえ醜い顔が、涙で化粧が滲んでしまい、もう、見るのも辛い顔になってしまった。ダメだ、魔物(社長)に止めてもらうという手段は使えない……っ!


「貴様ァ……社長が貴様を会社に連れて帰ろうとしたのに、それを振り払ったな。どういうつもりだ?まさか会社を辞めたいとかではないよな?」


「…………」


何も言い返せなかった。ここで素直に頷けば、恐らくタダじゃ済まないだろう。少なくとも今掴まれている腕は使い物にならなくなる。なんとなくだが、そう思った。


「今後も辞めずに、社長の為に一生を捧げるのなら、我が社の教訓を音読しろ」


「…………」


ここで教訓を言えば、これ以上痛い思いはしなくて済むのだろう。だが、教訓言えば俺はまたあの生活に元通り……。やはり、何も言えない。


「そうかそうかぁ……貴様は社長を裏切った。そういう事で良いのだな?ならば、ここで死ね……っ!」


ガキュンっ!!

今まで聞いたことのない音が俺の中で轟いた。….…え?ちょ、まちぃな。え?俺、死ぬの?


恐らく首元に強烈な打撃を食らった俺は、身体中の力が抜け落ち、ドサリッと地面に倒れ落ちた。


(やべぇ……目の前が霞む……耳も、遠くなってきてる)


初めて命の危機に直面して分かった事がある。死ぬ時ってのは、なんとなくわかる。言葉じゃ言い表せれないが、死ぬんだなって直感でわかる。


あぁ……俺は23年間彼女なしの童貞で死ぬ事になるのか。せめて来世は……ラブコメ主人公のような学園生活を送れますように……。あ、もしくは剣と魔法の世界の主人公になれますように……。


そして俺は、深い闇の中に沈んだ。

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