表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もうひとつの昔話(パロディ)

浦島太郎(もうひとつの昔話14)

作者: keikato

 助けた亀の背に乗り竜宮城に行った、浦島太郎。

 城の主、乙姫様の温かいもてなしを受けます。

 この世のものとは思えぬ、ごちそうにお酒、タイやヒラメの舞い踊りと……浦島太郎はそこで夢のような時間を過ごしました。

 ですが日がたつにつれ、村にいる年老いた母親のことが気になってきました。

「そろそろ帰ろうと思うのだが」

 浦島太郎の申し出を、

「では、さっそく手配をいたしましょう」

 乙姫様はこころよく受け入れてくれました。


 乙姫様と別れぎわ。

 浦島太郎は竜宮城にいる間、ずっと気になっていたことをたずねてみました。

「ここは、とてもこの世とは思えぬのだが」

「はい、あの世なのです」

 乙姫様が小さくうなずきます。

――やはり、オレは死んでいたのか。

 浦島太郎は思いました、

 自分は船もろとも海の底に沈んだのだ。ここにいた間はうつつの夢であったのだと……。

「では、オレは死んでいるのだな?」

「さようでございます。このまま現世にもどろうとしても、海のもくずとなるでしょう。けれど、これがあれば生きて帰れます」

 乙姫様はそう言って玉手箱をとってきました。しかるに、それを渡すか渡すまいか迷っています。

「年老いたおふくろが待っているのだ。いただくわけにはまいらぬか?」

「さしあげてもよろしいのですが、ただ……。ここでの一日は、現世では百年。たとえ帰ったとしても、あまたの歳月が過ぎておりましょう」

「ではすでに、おふくろは亡くなっていることに。なんとかならぬのか?」

「歳月の流れはあまねく決まっております」

「そうか……」

 浦島太郎はがっくりとうなだれました。

「ですが、あなたは生きて現世に帰ることがかないます。たとえ歳月が流れておりましょうとも」

「で、いかほどの歳月が?」

「帰ってみればおわかりになります。それでもよろしければさしあげましょう」

「いただこう。帰って、おふくろの墓を守ってやりたいのだ」

 浦島太郎は顔を上げて言いました。

「ところで乙姫様、箱の中にはいかなるものが?」

「流れた歳月です。今となっては取り返せぬ、過去の時間が入っております」

 乙姫様はそう教え、浦島太郎に錦のヒモのついた玉手箱を渡しました。


 浦島太郎は玉手箱を手に、亀の背に乗って竜宮城をあとにしました。

 乙姫様の話のとおり、現世では数えられぬほどの歳月が流れていました。生まれた村はすでになく、むろん見知った者などひとりとしておりません。

――こんなはずでは……。

 深い絶望感に、浦島太郎は見なれぬ町をふらふらとさまよい歩きました。

――たしか、これには流れた歳月が……。

 失われた過去をとりもどそうと、たまて箱の錦のヒモをほどきます。

 と、そのとき。

 車道に座り込んでいる浦島太郎のもとへ、一台の車が走ってきました。

 浦島太郎はふたたびあの世に行きました。

 たまて箱のふたに手をかけたまま……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] どこまでも浦島が哀れですね。竜宮城で楽しんだつけと言えばそれまでですが…。玉手箱の運命はどうなってしまうのかと思いました。センテンスの長さが絶妙でとても読みやすいです!(^_^)
2018/03/13 08:58 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ