3話 [死季の妹]
天界は綺麗な建物がたくさんあると言うイメージがあったが、廃墟や廃墟に近い建物しかなかったので少しがっかりした。さらにがっかりしたのが、天界に着いて早々に問題発生らしい事だ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こちらを睨みつけている幼女は小さく口を開き、
「死神王牙、何故戻ってきた。貴様の顔など二度と見たくないのに…」
「そう言うなよイトリ…」
王牙はどこか悲しげにそう答えた。
真理亜は不思議に思って聞いた。
「知り合いですか?」
「…死季イトリ…俺が2番目にいた世界で、大切だった人の妹だ」
王牙がそう答えると、イトリは急に怒り狂いながら叫んだ
「貴様にお姉ちゃんを大切だったなどと言う資格は無いんだ、だから二度と言うな!次に言ったら、貴様の首をぶった斬る」
「…………」
王牙は俯いたまま何も言わない。
そして、真理亜にだけ聞こえるように
「ここは一旦引こう、戦わなくて済むなら、それだけで…」
「…わかった」
真理亜はイトリに頭だけ下げ、黙って歩き始めた王牙について行った。
だいぶ離れた廃墟に入った。
「イトリちゃんと王牙に何があったのか教えてくれる?…嫌ならいいんだけど」
「いや、聞いてくれ」
そして、王牙が自分の過去について話し始めた。
王牙の過去の話はだいたいこんな感じだ
人間として生活を送っていた世界が滅んだ、そして滅んだ世界で少しばかり生活を送っていたらある日、黒いカードを拾って、そのカードをいじってると天界へ繋がる門が開いた。その門の中に入ると現在地である「赤城都市」へ着いた。赤城都市で、右往左往して困っていた王牙に一人の女性が手を差し伸べた、それが、「死季シズク」だった。
王牙はシズクの元で生活を送ることになり、シズクの妹であるイトリとも仲良く暮らしていたらしい。
だがある日、大量の神や天使がやって来て王牙が死神と邪悪なドラゴンのハーフである事を告げ、赤城都市全体を包囲した。王牙は訳がわからなかったが自分が狙いだという事を理解し、自ら神や天使の元に出て行った。しかし、神や天使はその邪悪なる死神とドラゴンのハーフを匿っていたとして赤城都市を攻撃した。
赤城都市は壊滅、市民の半分以上が死亡した。その死者のなかにシズクが入っていた、その後、赤城都市壊滅の事実を知った王牙は何とか神、天使から逃げ切り赤城都市へ向かった王牙はイトリからシズクの死とその原因が王牙にある事を告げた。それ以来、イトリは王牙を憎んでいるのだと言う。
「それって、でも、その神と天使が悪いんじゃないの?」
「聖天使、死神や厄病神以外の神は絶対なんだ、つまり、奴らが正義であり奴ら以外の物は悪もしくは存在価値のない物なのさ…」
「そんなの正義じゃない!」
「真理亜…でも、それがこの世界の常識なんだ…」
王牙は少し怒ったように答えた。
神々の正義は間違っている。
それは間違ってない、その事に関しては態度からして王牙も同意見らしい。
ならば、やる事は一つだ
「イトリちゃんを説得しよう!間違ってるのはあいつらなんだって、王牙は悪くないんだって、そう教えよう!」
真理亜は立ち上がり決心した
王牙はびっくりしたように真理亜の方を見て、少し間が空き
「それは無理だ、この世界の常識を変える事はできない。真理亜が元いた世界で天皇よりも罪人の方が偉いと言ってるような物だ」
真剣な表情で王牙は真理亜の行おうとしている行為を否定した
「でも、このままじゃダメだってそう思うから、私は行くよ、王牙が無駄だって言っても私は行く。王牙が来ないならそうすればいい」
王牙は一瞬戸惑ったがすぐに表情を戻して、好きにすればいいとだけ言った
真理亜は、一人でイトリの元へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだ?貴様、王牙と一緒にいた奴か、何しに来た」
イトリが低い声で真理亜に尋ねる
「イトリちゃんの間違いを訂正しに…王牙から、過去の事は聞きました。お姉さんの事も、お姉さんの事は残念だと思います。だけど、その事を王牙のせいにするのは違う。悪いのは王牙じゃなくて、神と天使でしょう」
「あいつが、あいつが来なければお姉ちゃんは死ななくて済んだ、あいつが来たせいでお姉ちゃんは死んだんだ!」
「だから…」
「神と聖天使が正義で、絶対だから、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが死んだのは…お姉ちゃんを殺したのはっ!」
イトリが涙目になりながら必死に叫ぶのを真理亜は黙って見ていた。
「王牙が死神と邪悪な龍なんだって事を隠してなければ、私はお姉ちゃんをあいつに近づけなかった…悪はあいつで、悪いのは全部あいつで、今までの事だって私達を騙すために、わざと優しくしたりして…お姉ちゃんは、だから、私は王牙を殺す」
「待って、逃がしてくれるんじゃ…」
「そんな事、一言も言っていない。あなたも王牙の味方をするなら、殺す」
イトリはそこまで言うと腰に装備していた二本の剣を抜いた。
「ねぇ、蜘蛛って好き?」
「えっ?蜘蛛?あんまり好きじゃない、と言うより大嫌いかな?」
「私は好きよ、蜘蛛、糸を使って獲物を捕獲するの、そして、じわじわと殺して行く…」
イトリはそこまで言うと限界まで殺気を高めて真理亜に狙いを定めた
真理亜もそれを理解し警戒しながら、逃げる道の確保を急いだ
「蜘蛛の糸に気をつけてね」
イトリが真理亜に忠告すると剣を真理亜に向けたまま宙に浮いた
宙に浮いたイトリが真理亜を睨みながら宙を歩き、真理亜に近づく
「どうなってるの!?」
真理亜が震え気味でイトリの方を見たまま呟いた
恐怖でイトリから目を離せない
イトリが少し笑った
「ふふ、捕らえた」
真理亜の腕が何かに引っ張られた
感触からして、糸である
「まさか!」
「そう、蜘蛛の糸よ、まぁ、それより頑丈で強いけれど、私は蜘蛛の糸って呼んでるの」
幼女がまるで獲物を捕らえた獣の様な目をする
実際捕らえられたのだから冗談ではない
このままでは確実に殺される
「この糸はねぇ、どんな刃物でも切れないの、それに、私の糸には毒がある」
真理亜はそれを聞いて血の気が引いたのを感じた
だが、体に異変はない
毒は脅かすための虚言?でも、イトリが優勢であるこの状況で相手をビビらせる虚言など意味がない
そこまで考えた時、急に頭に頭痛が走った
「ぐぅああぁ、いっだぃ」
「ふふっ、王牙は来ない様ね、あなた、見捨てられたの?」
イトリが不気味な笑みを浮かべながら近寄ってくる
まずい、このままでは死ぬ
「なぁ、イトリ、殺したいのって俺だろ?」
聞き覚えのある声が聞こえた
まさに、今来て欲しかった人物の声
助けてほしかった人の声だった
同時に来るのが遅いとも思った
「王牙ぁ、貴様だけは、ぶった斬る」
「まぁ、開き直るわけじゃないけど、負けないよ?真理亜を助けなきゃならんし」
と言ってイトリの攻撃を難なく避けて真理亜を糸から助けた
「ありがと…」
「まぁ、毒は後で抜くよ、その前にイトリと戦うためにちょっと頼みがあるんだけど」
「何?」
「血を飲ませてくれない?」
王牙は恥ずかしそうに言った
真理亜は王牙の言葉の理解が遅れ、理解した時には、
「ヴァ、ゔぁんぱいあ?」
と言っていた
「いや、違うけど….龍の力を発揮するために血がいるんだ。自分以外の、だから飲ませてくれ!」
「う〜、わかった」
と言って目をつぶった
「ありがとう」
王牙は鋭利な牙で首筋に切れ目を入れてそこから流れた血を舐めた
「んじゃ、いくぜイトリ」
王牙の目が徐々に赤く染まり髪の色も黒から白へと変わっていった。
「ムラサメ…」
王牙が呟くと王牙の手に黒い刀身をした刀が現れた。
「ンジャ、血ノ色ヲ見セテモラウヨ」
性格、殺気、見た目が異なる王牙が口元に笑みを浮かべながらイトリに向かって刀を勢いよく下ろした…
距離は十数メートルはあったはずのイトリが足元を見て絶句していた。
「なに?これ」
「アァ?今更ビビッテンデスカァ?バカジャネェノ?」
相変わらず笑ったままの王牙は今度は勢いよく地面を蹴り
イトリとの距離を一気に縮めた
「ひっ」
イトリの顔が恐怖に引きつった
物凄い音がして、イトリの周りの地面が消し飛んだ
「なんだこれ」
イトリはなす術が無くなっていた
「エーコレデ終リ?ツマンネ」
「なに!?」
イトリが王牙の言葉が頭にきたのか再び殺気を高めて、剣を王牙にぶつける
だが、王牙はムラサメと呼んだ刀でその剣を止めた
「諦メガ悪イデスヨー」
空いてる左腕でイトリを殴りつけようとした
しかし、イトリは糸を使い、王牙の左腕を止めた
「まだ終わってない!」
「イイネ!イイネ!モット楽シマセロォ!」
今の王牙を一言で表すなら狂人だ
明らかに戦闘を楽しみ
イトリが傷つくのをみて喜んでる
「蜘蛛の糸っ!」
イトリが糸で王牙の首を狙う
だが、王牙は軽々と交わしてイトリに近づく
王牙はイトリにある程度近づくと 刀を地面に突き刺すと
「大地ノ悲鳴」
と呟いた
すると鼓膜がビリビリに破けるくらいの音で男か女か区別がつかない様な悲鳴が聞こえた
「うわ、なんだこれ気持ち悪ぃ、蜘蛛の糸」
イトリは糸で王牙の刀を引き抜こうとしたがいつの間にか後ろに回っていた王牙の蹴りを横腹にくらい吹っ飛んだ
王牙は刀を引き抜くとイトリと会話を始めた
「アマイナー、イトリチャン」
「うるさい!お前は私が殺す!」
「アァ?テメェ如キニ…チッ、時間切レカ」
「は?…」
王牙は突如目の色と髪の色が黒に戻った
「っと、イトリ、ここからは俺とお前の大事なお話だ」
元に戻った王牙は、真剣な表情でイトリに言った