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その7、現状把握に努めましょう。(4)

 大木の家に着いてすぐにチェイスは一階から薪を持って上へとあがった。


 家を出るときに分かった事だが、一階は私が崖から落ちた日に見つけた空洞で、薪や刃物、何に使うかイマイチ分からない手作りらしき道具、それと備蓄してある果実類。それとクイーンズサイズのベッドが入る空間があった。

 もちろん二階から降りたときにびっくりしました。そしてチェイスに聞いた。


 「私が居た時は何も置いてなかったのに……これ一体どうなってるの? しかも広くなってるし、火焚きに使った樹皮とか葉っぱとかがないわ!」

 「まじない」


 「えぇ!? これ呪いでどうかなるものなの!?」


 そんなの聞いたことない! 自分じゃ購入して使わないけど国では使用法だとか効果は誰もが知る情報だ。でもこんな完璧に大量のものを隠すなんて聞いたことない。魔法じゃなくてあくまでも呪いだから。


 「空洞見つける、ただの穴。見えなくなる」


 えーと、呪いは潜在意識を利用するから……。


 「こんなところに人が住んでるはずが無いと無意識のうちに思ってたら呪いで見えなくなるのね?」

 「そう」


 呪い侮れん。


 「でも、もし人が住んでそうなんて考える人が居たら見つかっちゃうじゃない」


 そういう妄想をしてしまう可能性は大いにあるはずだ。


 「まだ、まじないある」


 チェイスはそれだけ言って森へと入って行ったのだ。私は物凄く必死に追いかけた。倉庫に置きっぱなしだった大きな鞄を背負って。


 と、まぁこんな感じでほんの少しだけこの家の秘密を知ったのだが、まだ知らない事が沢山あった。それを今から聞くはずの予定なのだが、何故だろう。またしても私の前には暖かいココナッツのスープが置かれていた。あー、いい匂い。


 「いや、ほっこりしてる場合じゃなかったわ。チェイス、朝ペロリと食べた私が言うのもあれだけど、ご飯用意してもらうなんて何だか悪いわ」


 「……なぜ」

 「だって、これ貴方が自分で取ってきたものでしょう? 限りがあるわ。それに……私、居候だし」


 今まで好き放題やらせてもらったけど、一応一般的な常識は持ち合わせているつもりだ。流石に無銭飲食は駄目、たとえ無人島でも。


 「私も森の生活は慣れてるわ。自分で食料は採ってくるし料理もする。もし他にやる事があるのならそれをやるわ」


 ここでは金銭は意味を成さないただの塵同然だ。働かざるもの食うべからず!!

 そう思っての発言だったのだが、チェイスは無表情で見つめてくる。


 「下いっぱい。無くなる、取ってくる」


 うーん、なんだかはぐらかされた気もするけど、言うことは分かる。確かに沢山あるのに採ってきても腐らせるだけだろう。

 

 「それもそうね、分かったわ。」


 ひとまず昼食をいただこう。細かい話はこの後でも大丈夫。正直温かいうちに食べたい。

 チェイスお手製のココナッツスープはやっぱり美味しかった。




 「それで、本題なんだけどいい?」


 食事を終え、テーブル(でかい丸太)を綺麗に片付けて私は例の本をそこに置いた。


 「……(コクン)」

 「まず、貴方が此処にこの島に居る経緯は何となく分かった。話してくれてありがとう。でも私にとっては不思議で仕方がない事が幾つかあるわ。……チェイス、何故子供の時からこの島に居る貴方が本を持っているの? 知ってる? 此処は誰もしっかりとした調査をしていないの。密猟者は……何度か来ているとは思うわ。でもそんな奴らが本を、しかも子供向けの童話を持ち込むわけがない。此処に正式に踏み込んだのは私が初めてのはずなのよ。だから大きな穴の空いた大木にホッとして休むことも出来た。でもそんな時貴方が現れたわ。どれだけ驚いたことか……。そしてこの大木は呪いをかけられてるのを知った。でも貴方は呪い師じゃない。……じゃあ誰がかけたの? 誰が本を? それだけじゃない。瓶に入った調味料、町で買える刃物類に鍋。竃やベッド、火の使い方や調理をするという概念。……貴方はなんだか……とても、ちぐはぐだわ」


 そう、ちぐはぐなのだ。だって子供の時に捨てられたのだからそんなに知識は無かったはず。彼の年が分からないから断言は出来ない、それでも比較的近代的な生活を送っているように思えた。……半裸だけは気になるところだけど。

 あと、私の勝手なイメージもあるが無人島に住む半裸の男がこんなに優しいとも思わなかった。初めはこの風貌だから怖かった。でも思い返すとチェイスは最初から優しい。まだ二日だけど、たった二日でそう思えるほどに。あの冒険者の格好をした暴漢者よりも比べるのも悪いほど彼は常識的である。……半裸だけは……いや、これはもう慣れることにしよう。


 「こんなに一気に話してしまってごめんなさい。伝わったかしら……ちょっと無理よね……?」

 「言いたい、こと、分かる」

 「ほんと? えっと、じゃあ答えられるものだけで良いから教えてもらえる?」


 「ここに居た、八歳。それから何年、分からない。ベッド、料理知ってる。火、密猟者? 跡で分かる。洞窟出る、大木住む何年、男来た」

 チェイスは使い慣れない言葉を繋げて教えてくれた。理解するのはほんの少しだけ時間がかかるが言うことは分かる。


 「つまり……八歳でこの島に……それから何年経ってるかは分からないけど元々ベッドと調理の概念はあって密猟者の残した火の跡で熾し方を知ったのね? そして洞窟を出て此処に住み始めて何年かしたら……男の人が来た? ……え、それは普通に接触してきたの?」


 「せっしょく? ……そう、普通? に」

 私の正面に立つ彼は腕組みをして言葉に苦戦しつつもしっかりと返事をしてくれる。時折目を瞑ったりしているから思い出しながら言葉を使う事は少し難しいのかもしれない。


 「アリシア、いつか会う」

 「定期的に来るってこと?」

 「……(コクン)」

 「じゃあ、ここにある本や調味料とかはその人が?」


 「そう。本、話せるようになれ、調味料、飯が不味い。そう言ってた。」


 「……私も結構図々しくしてしまったと少しばかり後悔していたんだけど」


 凄い人のような気もする。


 「あ、呪いは誰が? まさかそれもその人?」

 「(コクン)」


 本当の意味で凄い人の可能性がグンと高くなったわ……。


 「チェイス、ありがとう。ひとまず貴方の謎は大体解けたわ。あと……これが凄く重要な事なんだけど、この大木がある場所から海へは出られないのかしら? 昨日試したのになかなか出られないの」


 「アリシア……出るのか」


 「え? まぁ、私はこの島の調査に来ているからまだ居るけど、いつかは出て行くわ。冒険家なの。同じところにはずっとは居れない。楽しい物を求めてうずうずしちゃうのよ。でも、とりあえず海へ出て船を確認しなくちゃ、地図を描いても船がなきゃ町に戻って提出できないわ。という事で海へ行きたいんだけど……チェイス?」

 出れるのかしら? と問おうと思って彼を見たら凄い顔をしていた。

 えぇ!? 怖っ! 眉間の皺凄い事になってる! なんで!?


 「ど、どうしたの?」


 「……海、出れる。厳しい、崖登る。」

 「あぁ、なるほど。難しい道のりなのね。」


 「いつ?」

 「明日かその次か……正直もう足がクタクタで歩けないわ。あの……案内お願いできる?」


 「(コクン)」


 心なしちょっと遅めの返事を貰ってとりあえずホッとした。これでこれからの事が考えられる。

 今日はもう休むだけになりそう。そうと決まればまだ聞く事があった。


 「ねぇ、体を洗う場所……水を浴びたいんだけど決まった場所とかある?」


 まともな水浴びも出来ずに私の体はドッロドロだった。……恥は一応持ち合わせているが、それよりも今はこの汚れを落とす事の方が重要で最優先だった。


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