その4、現状把握に努めましょう。
体調不良はやはり風邪だったらしい。
まぁ、当たり前のような。熱が出ても仕方のない事ばかりが起きたと思う。そして今も事が起きている最中だ。
「チェイス、まず気になることを聞いてもいい?」
名前を教えて貰った後、休めと言われたがどうしても気になって眠れる気がしない。
チェイスは頷くだけで無言である。
「ありがとう。ここは大木の中なのよね? どう考えてもこんな完璧な部屋じゃなかったと記憶しているのだけれど、どうなってるの? チェイスさっき階段登って来たわよね? でも階段なんて無かったし……」
そう、先ずはこの場所からだ。あの大木は太さだけでなく高さもあったけれど、ただ驚くほどの広い空洞があっただけで人が住んでいる気配は無かった。
「大木の中、そう。この下、まだある」
「えーと、大木の中なのは合ってる……のね? あと、この下に部屋があるってこと?」
チェイスはただコクコクと頷いている。
「いくつ部屋はあるの?」
「……三」
なかなかの衝撃だ。大木の中にここだけでなくまだ部屋がある!? そんなに空洞があってこの木は生きているの? 考えれば考えるほど理解しがたい。
「じ、じゃあ、私が見た、ただの空洞は何だったの?」
「あるものが、見えない」
「あるものが見えない?」
さっぱり分からん。
「まじない」
「ま、呪い!? こんな場所で? チェイスは呪い師なの?」
その風体で、という言葉はすんでで飲み込んだ。
呪いとは人の潜在意識の中にある強い意志を利用して己の願いを叶える事ができる優れものである。が、誰でも使える訳ではなく素質のある人が国の管理の元、学園に通い卒業した人だけが商売を許される意外と商人気質でありお堅いものなのだ。怪しいものも裏にあるらしいが、知ったこっちゃない。呪いの種類にもよるけど、まぁまぁ良い値段がするから利用した事はない。
しかし、学園で学ばなければ恐らく使えないだろうからチェイスは違うのか。
「違う」
「そ、そうよね」
いや、分かってはいたんだけどね。
「じゃあ、どうやって―――」
「アリシア、寝ろ」
「え!? まだ話が!」
やっと理解し始めたところなのにチェイスは相変わらずの無表情で肩を押してきた。
……そういえば此処ベッドの上だった!
「きゃっ!」
肩を押した体制のままチェイスは私をじっと見ている。無表情で。
「チ、チェイス! 離して! ど、どうしたの?」
「……アリシア、熱い。これ死ぬ、寝ろ」
そう言うと、チェイスは灯りも持たずに階段へと消えていった。
そうでした。私風邪でした。
流石に死ぬことは無さそうだけど、確かに体は熱いし吐き気は無いがクラクラする。
ふぅーと息を吐く。きっと悪い人では無いのかもしれない。けど、昨日の今日だ。男性は怖い。
それにチェイスの見た目もある。多分190cmはあるんじゃないかというくらい物凄く大きな体。筋骨隆々で髭もじゃ、おまけに半裸。これを怖がらない女性は居るのだろうか。……無理じゃない?
うん、これ以上考えても仕方がないだろう。
チェイスの寝る場所が気になったが、今回は甘える事にしてベッドの側に置かれた二つの蝋燭の火を消し横になった。そして思う。
「木のなかで火をつけるって正気じゃないわ。明日からはやめよう」