番外編。ある日の出来事その3。
その日は1人で東側の植物の調査をしていた。
東と西は範囲が狭くて案外あっさりと探検は終了する。もう既に東の方の地形はほぼ書き込んだ。あとは大雑把な植物の調査だけ。
細かく書かなくて良いの?と思うかもしれないが、世の中の地図なんてそんなものだ。重要なのはその場所に貴重な資源がないかを国に報告すること。もし探険出来ないほどの危険地帯を発見したら周りから見た大体の地形と危険と言うことだけを記せばいい。冒険家が行けない場所には誰も立ち入らないから。
因みに南の方にもそんな場所があって冒険心が疼いて本当は行きたかったけど、チェイスに止められた上に担がれて家まで戻ってくる羽目になった。
何処にでも付いてこようとするチェイスだったけど、たまには1人で探険したいとお願いしたら「東、大丈夫。遅い、行く。」という保護者ですか?という返事を頂いた。
そういう訳で1人で探険していたんだけど、まさかこんな目に合うとは。
「グルルルルル」
今現在、毛艶のとてもいい綺麗な狼さんに押し倒されてます。
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何故こうなったのか。
ことの初めは、東側の植物調査をしていた時だった。
普通に植物のスケッチをささっと描いている時に背後に気配を感じた。
経験上あまりこれ宜しくないぞ。と思ってあえて振り向かなかった。
そうしたら次は前からも気配を感じる。囲まれてると思った時にはもう正面から襲撃されていた。
「ガウッ!!!」
そして今である。
「え、と。チェイスの兄弟かしら?落ち着いて…って無理よね。人間なんて大嫌いでしょうし。こんな冒険家の格好してたら密猟者と変わらないものね。」
意外なことにそんなに怖くなかった。東側は狼のお母さんの居た洞窟がある場所だったし、何処かでこうなる事を想像していたからかもしれない。それと、チェイスの兄弟っていうだけで油断しているのもあるかも。
でも、実際彼女?彼?は最初の攻撃以外は威嚇だけで何もしてこない。
そして急に威嚇も止めてクンクンと匂いを嗅ぐとのし掛かっていた前脚を退かして目の前にちょこんと座った。背後にいた子も前に来て座る。
なにこれ可愛い!!
感情を抑えきれなかった私はそろりと近づきモフらせて頂いた。あぁ至福。
と、そんな事があったんだーと家に帰ってから呑気にチェイスに話した。
「アリシア、これ、その時か?」
そしたら凄い怖い顔された。
めちゃくちゃ怖い。眉間には深い皺、鋭い瞳は私を睨むように(多分そんなつもりは無いと思う)首の傷からこっちへ向けられた。
「ど、どうだったかしら?転けた時にきっと擦りむいたのね。」
実際それは事実だった。正しくは狼に押し倒されて転けて出来た傷だが。
そんな細かい事までチェイスにはお見通しだったらしい。でも兄弟も悪気は無かったから感情のやり場が無くてどうしたら良いか分からないんだろう。
「チェイス、本当に大丈夫よ。このくらいの怪我なんて当たり前のようにしてきたし、この島に来てからは初日以外は怪我してないけど…私慣れっこなの。兄弟はこのくらい警戒すべきだし、今回ので彼らも分かったと思うから。もうこんな事は無いわ。ね?だから大丈夫。」
「……痛く、ないか?」
「えぇ、全然。」
「…分かった。」
少し目線を下げてチェイスは自分に言い聞かせるように呟いた。
本当に彼は優しいわ。この島は無いものが沢山あるけど、私はとっても暖かなものを得た。
次の日また東に行く私にチェイスは驚きの行動をとった。
「兄弟、すぐ分かる。匂い。」
そう言って抱きしめてきたのだ。
!!!!!!!
驚きすぎて声も出ない。
…アリシア、貴女は今狼にマーキングされているのよ。そう、マーキング。
………………。
…どうしよう困った。
なにがって、そんなに嫌じゃない自分がいるのよ。はぁぁぁ…。
でも、東の調査が終わるまで毎日抱きしめられるなんてこの時は思ってもみなかった。…困ったわ。




