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その1、とにかく逃げましょう。


 これは私アリシア・スタンリーが人生で最も衝撃的で尚且つ刺激的な幸福を掴んだ体験記である。







 職業柄こんなことは慣れっこだ。そう、慣れていたはず。

 茂みをかき分け森へと入り、岩がごろごろと転がる険しい山道を登り、時には進行方向を川に塞がれ、方向を変えれば岩壁に阻まれ、歩きながら描いた未完成の地図を広げれば雨が降る……。

 このくらいなら何度も何度も経験してきた。

 そして今回もその通りに進んでいただけだ。

 ……だけのはずだったのに!!


 「何で他の冒険者がいるのよっ!」

 私は全力で逃げていた。


 冒険者ならぬ、暴漢者から。


 さて、これは戻るべきかなと濡れた地図から空を見上げようと上げたその視線の先にいたのが、現在進行中、卑下た笑みを浮かべながら私を追いかけて来る暴漢者である。

 普通、別に他の冒険者に会ったからといって走り出す必要はない。むしろ情報の提供をしあうこともある。お互い命に関わる事をしているのが分かっているからだ。

 だけど今回は違った。

 何が違うって、不自然な荷物と目付きだ。いや、主に目付き。

 これだけで逃げ出すには十分な理由になるほど嫌な目をしてた。

 そして、荷物。

 全力疾走しながらふと脳裏をよぎる。あの男の荷物は高価とされる動物の牙や毛皮が大半を占めていたように思えた。

 背負う鞄に入りきらずに溢れているどころか、腰や肩にかけているくらいに。


 冒険者には色んな人がいる。その殆どがギルドの窓口で身分登録をして仕事を貰い生活している。が、しなくても国を出なければ自称冒険者でもやっていけるから、そのような人もまぁまぁ居る。だが国を出て仕事をするには身分証明書が必要でギルドに登録すれば身分証明書も発行してもらえるので一石二鳥というわけだ。

 仕事内容は簡単な狩りから珍しい植物採取や動物の捕獲、生態調査に土壌調査などなど。難易度で賃金も上昇、男女差別も特に無く、好きなタイプの物を選んで仕事出来るとだけあって自由を好む者や腕っぷしに自信のある者などがこの職業に就く。

 そこでだ、何でこの暴漢者がオカシイと思ったのかというと、登録してある冒険者には規則がある。

 その一、認定された冒険者であるからにはルールに従うべし。

 その二、一度に大量の採取を禁ずる。

 その三、全ては自己責任。

 と、まぁこんな感じの大雑把な規則の他にも色々と小さな字で書いてあったが正直覚えていない。

 で、この規則二の大量の採取を禁ずる。というのをあの暴漢者はどう見ても無視していた。

 大概そういう奴は登録せずに裏取引とやらをしている危ない奴だ。というのがこの世界の常識なのである。特に女の冒険者は気をつけるようにと警告されている。力では敵わないからね。


 そして不幸中の幸いというのか、私の勘は的中。偶然にも見つけてしまった危ない奴を一瞬で嗅ぎ分け、書きかけの地図を握り締めたまま走り出したのだ。

 さて、経験のない逃走。これからどうしようか。


 「って冷静に判断出来るわけないでしょー!」

 捕まったら、やるだけやられて口封じに……ってところだろう。


 「それだけは嫌よ!!!」


 そうして私は、がむしゃらに知らない森の中を走って走って……崖から落ちたのである。

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