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異世界でただ独りの無職称号《ノービス》  作者: 東雲部長
Prologue. 独りぼっちの無職《ノービス》の出会い
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初めての共同作業


 テオフラトゥスは震えた。

 初めての純粋な恐怖を感じたときだ。生まれたての子鹿のように、ぷるぷると震えた。

 その理由は、リンネ・ソロという存在である。


「おはようございます、旦那様。朝食は出来てますよ」


 茶目っ気と、ご機嫌混じりな声が、テオの目覚ましだった。

 枕元に差す陽光を浴びるより早く、リンネの笑顔が広がっている。


「……昨日の夜、鍵閉めたよね?」

「はい。私がちゃんと鍵かけておきましたよ」


 陽光を浴びたにも関わらず、ぞくりと背筋が凍る。

 そう、彼女が荷物を取りに行くといった時、テオは確かに鍵を閉めていたはずだ。にも関わらず、目覚めを迎えたのはリンネの笑顔である。

 心なしか、彼女の瞳から光彩が消えていた気がするが、


「鶏卵が好きなんですね~。いっぱいあったので使ってみました」

「ああ……うん、栄養もいいし美味しいから……うん」


 考えを掻き消すように、リンネの明るい笑顔が支配する。

鶏卵は安いのもあって常備しているのは間違いない。


 いや、もう考えるのはよそう、とテオは重い身体をあげた。

 気のせいか、見下ろした自身の服も変っている気がした。


「ご飯食べたら……仕事探しにいこっか」

「はい! できれば遠征任務がいいですねー」


 遠征任務の多くは、数日かかるが支払いもいい。二人で活動するなら妥当だ。

 テーブルに置かれたパンと、丸焼きした鳥の中に野菜を入れて卵で閉じた料理が並んでいる。 

 ああ、なんと美味しそうなことか。


「……可愛い女の子と、美味しそうな食事に迎えられる。幸せな、はずだ」


何の不満があるというのか。テオは自嘲気味に笑うのだった。


 ――――――――――――――――――――――――

 ―――――――――――――――――

 ――――――――――



 セカイ各地にギルドという冒険者連合はあれど、プリンシピオの街にはどこにでも通じる最大手ギルドが存在している。

 その中でも、共通する部分として大きいのは【職業】の存在だ。

 職業は、名称が違えどほぼ全てのギルドで共通している。

 そして、簡単な依頼は誰にでも受注できるが、そこから先は職業に応じた依頼を受ける形だ。


――――――――――――――――――――――――――

戦士ソルジャー[剣 / 斧]

騎士ナイト    → 勇将ヴァンガード

聖騎士クルセイダー→ 神将騎士インペリアルガード

狩人ハンター   → 狙撃手スナイパー

暗躍者アサシン  → 道化師トリックスター


魔導士メイジ

賢者ウィザード  → 大魔術師マギ


僧侶プリースト

聖職者クレリック → 神託者オラクル


生産者クラフター

行商人トレーダー  → 商人マーチャント

――――――――――――――――――――――――――


 戦士なら討伐や行商の護衛を。勇将ともなれば、王都に招かれた仕事を受けれるだろう。

 魔術師ならば、そこに研究の助手が殺到するだろう。

 僧侶は、癒やし手としてパーティの同行や、地方での治療活動がメインだ。


 そして今日、リンネが受注したのは僧侶としての【護衛任務】。

 テオフラトゥスはその同行者として付きそう形で、いわゆる初めての共同作業だった。


「わたし初めてです……知っている人と同行するのは……」

「俺もだよ。そもそもパーティ活動なんて何年ぶりだろうなぁ」


 プリンシピオの街、郊外。

 二人が出会った地よりも西の方、ネフティー村に向けて歩を進めていた。

 その村で待ち合わせした人物の護衛することが依頼だ。


「あむっ……」


 塩漬けして干した肉を囓りながら、テオは隣の少女に注視した。

 その視線に気づくなり、リンネはパッと明るい表情を見せてお淑やかに手を振った。


「ネフティー村って行ったことがないけど、リンネさんはある?」

「いえ、結構閉鎖的なところだって聞いてますから……」


 他愛のない会話にも、彼女はやはり笑顔だ。

 しかし、会話が止まるなり、前髪に隠れた表情からは明るさが失われる。

 あどけない顔立ちながら、長い亜麻色の睫毛と、薄紅の唇がどこかなまめかしさを感じるのはなぜだろうか。

 何よりも、前髪で目が隠れてしまうのは、やはり暗い印象を感じさせてしまう。


「でもここから近くて果物が美味しいらしいですから、楽しみですね!」

「ん……、そうだね」


 干し肉を囓りながら、前方を見る。

 景色一つ変らない緑と、舗装された石造りの道が伸びているだけだ。近い、のだろうか。


「あっ」


 その時、隣で金属音のようなものが聞こえた。

 彼女の上着から短剣がこぼれ落ちたのだろう。

 テオは拾い上げようとして、干し肉をかじりながら身をかがめた。すると、コツンと二人の頭がぶつかり合ってしまう。


「あいたっ」

「きゃっ」


 二人で拾おうとしたせいだ。

 お互い顔を上げると、その目と目があって、互いに照れくさくなってしまった。


「ご、ごめん。はい……」

「あり、ありがとうございます……」


 短剣を取ったテオは、苦笑しながらそれを渡した。

 しかし、リンネの頬は真っ赤だ。それがまた気恥ずかしさを増して、テオは振り切るように塩肉をガジガジとかじった。

 塩辛い中に肉の旨味を感じながら、ふと思う。


(な、なんか悪くないな……)


 可愛い女の子との二人旅だ。

 口の中とは違う甘酸っぱさを感じながら、テオはそれを噛みしめていた。


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