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異世界でただ独りの無職称号《ノービス》  作者: 東雲部長
Prologue. 独りぼっちの無職《ノービス》の出会い
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パーティ、組みましょう

 テオフラトゥスが拠点とする街は、【プリンシピオの街】と呼ばれている。

 世界の中心に近いこの街は、どこにも属さない中立の街として最大手のギルドが自治する街だ。


 白と煉瓦色の石造りを基調とした街並みには、様々な露店が建ち並んでいる。

 足場の舗装から生活基盤や治安など、他と比べて隅々まで行き届いた街だ。

 建物伝いにかけられたロープには旗が降ろされていて、まるでお祭りの最中なのかと錯覚してしまうほど賑やかな街は、永住を求める者も多い。


 そのプリンシピオの街の一角、噴水を中心にして連なるベンチを見渡すようにテオは歩いていた。


「あっ」


いつから居たのだろうか。

 テオが来た頃には、少女――リンネはベンチに腰を下ろしていた。

 その顔には、三日前までの絶望は見えない。

 小動物が震えるように、リンネはしきりに周囲を見回していたようだ。

 テオの目立つ黒髪に気づくなり、パッと花を咲かせたような笑顔を見せた。


「テオさん……!」

「顔色が良さそうで安心した。数日前まで死んじゃいそうだったから」

「おかげさまですぅぅ…………」


 こちらを見つけるなり、リンネはまたもや泣きそうな表情で両手を結んだ。

 笑ったり、泣いたり、なんとも感情豊かな少女だ。

しかし、テオはとぼけて見せた。

 

「何のことかはわからないけど、解決したそうでよかったよ」


 本当に何も知らないかのように、テオは純粋な笑顔を見せた。

 しかし、悪徳ギルドが解散したのは彼女が話してから三日後の話だ。

 突然、ギルドの長が失踪したのをきっかけに、大手ギルドが調査に入ったことで様々な悪事が明るみになったと伝わっている。


 それが偶然と言えるだろうか。

 少なくとも、リンネはそれをテオのお陰だと信じていた。


「改めて、ありがとうございます……本当に助かりました」

「何のことかはわからないけれど、ね。とりあえずこれ渡しておくよ。俺はまっっっっったく関係ないけれど、優しい人がもってきてくれたんだ」

「えっ……でもこれ」


 腰に携えていた布袋を手渡した。

 ずっしりとした重みの中には、彼女が払ったという銀貨10枚が入っている。

 銀貨10枚といえば、年端のいかない少女には相当の大金だ。

 目をぱちくりとしながら、信じられないものを見るかのように少女は呆けていた。


「もしかして自腹……じゃないですよね?」

「まさか! ほら、俺は無職ノービスみたいなものだから……そんなお金はないんだ」


 年下に自分が無職だと言うのはなんとも恥ずかしい。

 それを聞いたリンネは小首を傾げた。


「えっ、魔術師じゃなかったんですか?」

「あー……魔法使えないんだ……」

「でも剣を使ってたし、戦士なら」

「一人突っ走るし、パーティを顧みないしで適正ないって怒られてやめた……」

「ええっ……」


 どん引きされただろう。テオから乾いた笑みがこぼれた。

 戦士を断り、魔術師の才能はなく、僧侶も断った。生産職は飽和し、高い依頼を受けるには、地味な依頼を何年とこなさなければいけない。


 この世界において、そもそも働くことを放棄した人間を無職スーパーノービスというのだが、ギルドに所属していながら職に就かない人間は彼ぐらいだ。

 何らかの職業に就かなければ、それ相応の依頼が全く入ってこないうえに、依頼をこなしても実績は積もってはいかない。

 しかし、ギルドに所属しているだけマシという意味もこめて、テオだけが『無職ノービス』と名乗っているに過ぎなかった。

 

 そして、ここまでは言い訳だ。

 実際には、ただこの組織に根を張りたくなかっただけである。

 

「あれだけの力があるのにもったいないですねー……」


 チラリ、と上目遣いにテオを覗いた。

 テオも覗き込んでみると、亜麻色の前髪に隠れた目から、期待に満ちた瞳が向けられている。

 何の期待だろうか。

 これだけではいくら察しが良い人物でも、小首を傾げてしまうはずだ。


「えっと……?」


 よくよく見ると、以前までの彼女と比べて変わっていた部分がある。

 以前は、僧侶の一般着と思われるローブのみと簡素な印象があった。

 しかし、今日は薄い黒インナーの上から、肩と腹部の開いた上着を着ている。何よりも大きな胸が、自己主張激しく上着に美しい曲線を描いている。

 落ち着いた装飾のカチューシャも身につけ、可愛らしさと大人の色香が同居していた。

 今更遅いかもしれないが、


「今日の服、とても似合ってるね」

「ふふっ、嬉しいです。でもでもでも! それはそれとして……」


 本当に嬉しそうに微笑むリンネだったが、右から左へと流していった。

 そこはどうでもよかったらしい。

 尚更わけもわからず、ちらちらと胸ばかり覗くテオの答えを待っていた彼女も痺れを切らしたようだ。

 太ももの上でもじもじと遊ばせていた指をとくと、意を決したように声を張り上げた。


「私と……、パーティ組みましょう!」

「えっ?」


 テオは、基本的にパーティを好まない。

 というよりは、仕事の内容からして組む必要もなかった。

 実際のパーティ経験は二・三度くらいなものだ。


 だから、誰かに誘われたという経験もない。

 初めての誘いを聞いて、テオは必要とされる喜びを身に染みていた。このような可愛らしい少女に言われては、尚更である。

 テオはその手を――



「ごめんなさい」


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