第四話・つまり発表の前夜
それは発表会の前日という、爆弾を抱えた日にやってきた。
「……部活をやめろ?」
「――」
「いや、待ってお父さん、確かに……」
「――――――」
「でもこのあの部活をして、私は変われそうなの」
「――――」
「そんなすぐには……」
「――――――――――」
「確かにそうかもしれないけど、でも……」
「―――――」
「限度は超えないよ! それに他の子もやってるし……」
「――――――。―――――――――――――、――――――――」
「そ、そこまで言うなら! 明日の発表会に身に来てよ! お父さんは何も知らないだけだよ!」
両者は睨みあうように対峙した。弱弱しくも、どこか恐怖を感じていない目と、冷たくも小さな驚きを感じている目だった。
「―――――――」
Y・Hの父は捨てるように言葉を残すと、その場を去った。
「……うう、」
父と初めて口論した。
Y・Hの父は寡黙だが、厳格な性格であり、少しでも怒気を孕んだ言葉を放とうものなら、Y・Hは心臓を圧迫され、すぐにでも死んでしまいそうなほどであった。
カエル紳士と出会ってからは、全てが順調だった。
練習でのミスも無くなった。小さなミスにもくよくよと根に持つことはなかった。そんんな、恐怖におびえぬ強い自分が組み立てられているのを自覚すると、やっと自分は何か鉄骨の檻から逃れたのだと、気分良く趣味のお茶を飲めた。
全てが台無しだ。
今なら発表の内容すべてを破壊できそうだ。
部員みんなで一致団結としたものを滅茶苦茶に破壊して、あれだけ情けをもらった仲間たちから、罵声さえ飛びそうだ。
さっきまでの虚勢が嘘のように、Y・Hは魂の抜けたキョンシーかゾンビのようにとぼとぼと無機質の体を操作した。彼女が歩くさまを見ると、体重すらなく、足音さえ何か幻聴の作用でないかと疑ってしまう。
Y・Hが自室に辿り着くと、部屋の一番目立つ所――Y・Hの視界の一番目立つ所に、カエル紳士は人形の様に感情を失ってしまった誰かを待っていた。
「紳士ちゃん……」
何かを願うか、乞うようにY・Hが言う。
紳士カエルは口を大きく開き、あらゆる色を吸い取った。




