アコ
お題:誰かの時雨 制限時間:30分 文字数:860字
目が覚めると部屋にサーっという音が響いていた。ベッドから手を伸ばしてカーテンを開けると、外はしとしとと雨が降っていた。薄暗い闇の中、窓ガラスに当たった雨粒が為すすべもなくガラスを伝って落ちていく。何度も、何度も。
あくびをして、起き上がる。
するとアコが起きていた。
「起きてたのか?」
テレビの前に体育座りして俺を見ていたアコはゆっくりと首を振った。今起きたんだろうか。アコはそれ以上会話をする気がないのか、俯いてしまった。結局一晩経っても感情が顔に出ないし、話さない。姉さんが昨夜突然連れてきて置いていった彼女は謎が多い。
テレビのスイッチを入れ、朝飯の準備にとりかかろうとキッチンの前に立ったら、アコが着いてきた。昨日のようにテレビに釘付けだろうと思っていたから驚いた。
「何?」
アコはしゃべらない。じっと俺を見つめている。テレビから流れてくるニュースキャスターの声が妙に耳につく。
「テレビのチャンネル変えていいよ?」
アコは首を振った。
「お腹減った?のど渇いた?」
アコは首を振った。他に思いつかなくてうーんと考え込む。トイレは自分で行くだろうし、他に何かやりたいことでもあるのだろうか。すると、アコが何かを呟いた。
「うん?」
「て、てつ、あ、えと、あの」
「ゆっくりでいいよ。何?」
アコがうちに来て初めて何かを伝えようとしている。俺はしゃがんだ。顔を真っ赤にしたアコはワンピースの裾をぎゅっと握っていた。徐々に目が潤みだす。
「て、てつ」
「うん」
「てつだ、う」
そう言ってアコが指さしたのはシンクのあたり。
「…朝飯の手伝い?をしてくれるの?」
アコが頷いた。
「そっか、ありがとう」
アコの頭を撫でようと手を伸ばしたら、アコは後ろにさがった。
「じゃあ、アコはテーブル組み立てて」
足を折り畳んで壁際に収納しているテーブルを指さすと、アコは頷いて取りかかりはじめた。
ね姉さんは厄介な子を連れてきたもんだ。頭を撫でようとしたあの、ほんの一瞬、目が怯えていた。




