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灯火
お題:漆黒の闇に包まれし風邪 制限時間:15分 文字数:393字
口元が隠れるようにマフラーを巻いて、ダッフルコートのポケットに手をつっこみ、前屈みで咳をしながら彼は歩く。風邪をひいているらしい。
話したこともない、声すらほとんど聞いたことがない。それでも気がついたら目が彼を追っている。恋ではなくて、彼と私が帰宅部で帰り道の方向が同じでそうなってしまっただけのこと。駅に着いて電車の同じ車両に乗るのも、降りたときに階段が近い、それだけのこと。
彼は背が低めで痩せている方なので、キックでもしたら骨折してしまいそうだと思う。痰の絡んだ苦しそうな咳をすると内臓が痛めつけられてしまいそうで、咳の拍子にあばら骨が折れそうで、実際にそんなことはないとわかっていても考えてしまう。教室でも、外でも、見かける彼は一人ぼっちで、いつか私の前から音もなく消えてしまいそうだった。後ろ姿を追いかけて、その手を掴まなければいけない気持ちにさせられる。何故かはわからない。




