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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
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思い出を振り返る

お題:思い出の兄 制限時間:30分 文字数:978字


ハンバーガーを買ってこいとパシッたり、ゲームを借りたまま返してくれなかったり、わからない問題を聞けばアホとかバカとか言ったり、自転車を勝手に使ってパンクさせたまま放置したり、兄に関しては傍若無人なことばかり思い出す。弟として実に色んな被害を被ってきたけれど、うちにやって来た兄の友人たちに聞くと、兄は学校ではそんなことをしないらしい。勉強ができて、サッカーもできる兄は人当たりも良く、学校では人気者らしい。僕にはそんな姿、ちょっとも想像できない。

兄が高校生の頃は色々と悪戯をしかけられてきたけれど、兄が大学に合格して一人暮らしを始めるとそういうこともパタリと無くなった。たまに兄が家へ帰省してきても僕に絡んでくることは少なく(もちろん家族として色々話はするけど)、地元の友達と飲みに出かけたりすることが多かった。寂しいとも思わないけどもうあういうことは無いんだろうなあと思った。

兄が大学を卒業して家に帰ってきてからも昔みたいに何かをされることは無かった。大学に通う僕と会社に行く兄とではうまく生活の時間が合わない。学生の頃とは違って僕ら兄弟の会話は少なくなった。


ある日、兄は父と母と僕に紹介したい人がいると言った。その週の休日に兄はその人をうちに連れてきて紹介してくれた。大人しくて地味な人だけれど話をするうちに兄がこの人を選んだ気持ちがわかった。兄とその人は結婚と同時に家を出ると決めていた。相手の両親からは承諾済みで、うちの温和な両親も快諾した。


兄が婚約者を紹介してくれた翌日の晩、久々にやろうぜと言って兄がレーシングゲームを持って僕の部屋を訪れた。僕らが小学生の頃、毎日夢中になって遊んだゲームだ。ゲームをするのも久しぶりだけれど兄と対戦するのもずいぶん久しぶりだった。ゲームをやっていくうちに戦いはどんどん白熱していった。途中で母にあんたたちうるさい!と怒鳴られたけれど、母が部屋を出て行った後に2人で笑った。最終的にゲームは兄の大勝利で終わった。小学生の頃も兄はゲームがうまくて僕には手加減をせず連勝しまくり、僕が悔しくて泣いたことを思い出した。兄はそういう人だった。兄がコントローラーを置く。


「今まで悪かったな」

「別に。望さん、兄貴にはもったいないね」

「ほんともったいないよなあ」


兄が笑う。僕もコントローラーを置いた。


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