かの人が残した本について ※未完
お題:小説家の伝説 制限時間:15分 文字数:479字
本棚のいちばん取りやすいところに置いている一冊の本を抜き、パラパラとページをめくる。話の内容は頭に入っているが一文一文までは明確に覚えていない。
「それ?」
三雲の言葉に頷くと彼女は手にした本を元の場所に返し、僕の隣にやってきて本をひったくった。ふーんと興味が無さそうにページをめくる。
「普通の小説ね」
「普通だよ。どこにでもあるような小説さ」
「どんな話?」
「つまらない男とつまらない女の話」
三雲はわかんないんだけどと呆れたように言った。説明するつもりのない僕がわからなくていいと答えると彼女はあっそうと言って髪をかきあげた。左耳の大きなイヤリングが揺れる。
「どこが伝説なわけ?」
「この本がベストセラーになったことだよ」
「ベストセラー?」
「確か100万部以上は余裕で売り上げているはずさ」
100万部!?嘘っ!?と叫んだ三雲は改めて本を見る。
「じゃあ、あなたには受けなかったけれど万人には受けた話だったのね」
「それがそうでもないんだ」
「え?」
「だからこの本が、この小説家が伝説だと言われているんだ」
「どういうこと?」




