離れて見えるもの
お題:壊れかけの別居 制限時間:15分 文字数:561字
最初は些細なことだった。夫婦でもすれ違いなんかたくさんあるし、ケンカだってある。二人の間に生まれた小さな火種はしかし時間とともに自然に消えると思っていた。そうして僕が知らんふりしている間に火はだんだんと大きくなっていったらしい。
晩御飯を終えた後、しばらく距離を置きましょうと言った妻の目は冷たかった。食い下がったけれど妻の意志は固く、翌日僕が目覚めた頃には家を出てしまっていた。
別居をはじめて一週間も経たずに一人暮らしは辛くなった。部屋は荒れるし、帰ってきても飯や風呂や洗濯は終わっていない。家の中は朝出たときのまま。コンビニで弁当を買ってテレビを見ながら晩酌をするものの、バラエティ番組を見て一緒に笑う人はいない。うっかりリビングで寝てしまっても毛布をかけてくれる人はいない。
妻が出て行って一週間後の夜。仕事を終えて家に帰ると妻が帰ってきていた。僕はなんて声をかければいいのかわからなくて戸惑ったけれど、妻は至っていつもどおりにご飯を作り、風呂を沸かし、洗濯と掃除を済ませていた。晩御飯を食べている間も実家の両親の話だとか飼っている犬の話だとか、他愛ないことをいつもどおりに話してくれた。
そして、晩御飯を終えてリビングでバラエティ番組を見ていると、同じタイミングで笑った。その直後、僕らはごめんと口にした。




