目的はただひとつ
お題:汚い冒険 制限時間:15分 文字数:529字
俺が勇者になって魔王を倒す旅に出ることになったのは世界平和のためだとか正義の心だとか幼なじみに唆されたとかではない。単純に俺の家が貧乏だからだ。
俺が生まれてすぐ父が魔物に襲われて亡くなった。主婦だった母は働きはじめて女手一つで俺を育ててくれた。しかし、母は数年前に重い病気にかかり寝たきりになってしまった。俺は八百屋や魚屋で働いて金を稼いでいたけれど母の病気を治す薬は高額で、薬を買うと食うのにも困り、かといって薬を買わなければ母の病状は悪化するという状況だった。
何とかして金を稼ぎたいと思っていた俺の耳に飛び込んできたのは、王国が魔王討伐に向かう勇者を探しているという話だった。魔王討伐にはもちろん命や旅費がかかるので、討伐に向かう者には相当な金額が支払われるらしい。俺はその話を聞き、即座に王宮へと向かい、話を取り付けた。
すぐさま王様との面接があった。初めて目にした王様は恰幅がよく優しそうな笑みを浮かべていた。何故危険な旅に志願したのかと聞かれ、まさか金のためとは言えず、父の復讐のためですと答えると、王様はいたく感激し、残される母の面倒を見ることを約束してくれて、ひどく安心した。
かくして俺は金のためだけに冒険に出ることが決まった。




