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旅の始まり
お題:振り向けばそこに国 制限時間:15分 文字数:404字
前を向けば隣国、振り向けば僕の生まれ育った国。僕はちょうど国境で立ち止まっていた。ここまで休みなく歩いてきたから立ち止まると思いの外疲れていることに気づく。
国を出ること自体はなんでもないと思っていた。しかし、こうしていざ国境に立ってみると自国で過ごした日々が懐かしく思い起こされる。家族、友だち、先生、あの子。今はもういない人。みんなの笑顔がサアッと風に乗って浮かび、消えていく。僕が今度この国に帰ってくるのはいつだろう。帰ってきたところで僕を迎えてくれる家もなければ人もいないけれどこの国は僕のたったひとつの故郷だ。悲しい記憶しかないけれど最後に帰ってくるのはきっとここだ。ここしかないんだ。
僕はもう一度振り返る。見慣れた街並みが広がっている。赤煉瓦の屋根、頭ひとつ飛び出た時計塔、遠くに映える山脈。その姿をしっかりと瞼の裏に焼き付けて僕は踏み出した。
復讐のために、そしてあの子を探くために。




