眠りから覚めて
お題:神の土 制限時間:30分 文字数:1244字
眠りから目が覚めた時、ああ、失敗したのだな、と私は思ったのだった。最低最悪の末路だ。
頭の奥がぼんやりとしていて、どうにもうまく物事が考えられない。手足は鉛のごとく重い。
目だけをぎょろりぎょろりと動かしてみて、自分の体が寝室のベッドに横たえられていることは把握できた。それだけだ。明かりは消えていても、ただ今は昼間のようで、部屋全体が光に溢れていて明るい。
壁にかかっている時計の秒針音がやかましい。やかましい、と言えばあいつはどうしているのか。自分ではもはや想像するしかできない状況においての第一発見者はあいつだろうに。
思考をあちらこちらに散らかしていると、部屋の扉が開けられて人が入ってきたのがわかった。こちらへと近付いてくる。
目のあったそいつは至って落ち着いていた。なにか、焦燥しているとか心配しているとか安堵しているとか、このシチュエーションに相応しそうな表情のひとつも見られなかった。悲しみも喜びもないのは私も同じだが。
「起きられたんですね。具合はいかがですか?」
毎朝言われる「おはようございます」と同じ声のトーンで問われたものだから、こいつも肝が座っているな、と認識を改めなければならないのかもしれなかった。
こいつは臆病とまでは言わないが、緊急時にはそれなりに慌てるタイプのはずだったが、私を見つめる瞳は凪いでいる。
いや、私がここに至るまで既にかなりの面倒事を片付けてはいるはずなので、疲れ切っているだけなのかもしれない。
自分ははたしてどんな顔をしているだろう。
気分としては最低最悪だ。目が覚めてしまった瞬間からずっと最低で最悪な気持ちに代わりはない。
失敗は失敗だ。自分の人生にはかねてより成功体験など程遠い代物ではあったが、しかして今回こそは失敗するわけにはいかなかったのに。要所で爪が甘い、と散々言われてきた私は慎重に慎重を期してきたというのに、またしても失敗を一つ増やしてしまった。
口腔内が乾いていて舌がもつれる。最初は声が掠れてしまい、一度唇を閉ざして唾液を増やす。
ベッドの傍らで立ち尽くしているあいつは無様な私をじっと見つめているだけだ。
「良くはないが悪くもない。神の領域には、なかなか手が届かないものだな」
厳然たる事実だけ告げた。この胸に渦巻くどす黒い激流を吐き出したところで何になるだろう。吐き出せなかったからこそ私は内なる濁流に飲み込まれ、溺れたのだ。
「そうですか」とあいつは頷いた。
部屋には相変わらず時計の秒針がカチコチと響いている。饒舌ではない私が黙ってしまえば、あいつが喋りでもしない限り、部屋には静寂が広がっていく。
茫漠として手の届かない静けさに、私の手は届かなかったのだ、と気付いて内心で顔をしかめた。
「先生が、」とあいつは口を開く。
「先生がどこにも行ってしまわなくて良かった、と私は思っています」
やはり「おやすみなさい」と同じ声のトーンで話すものだから、聞き逃してしまいそうだった。




