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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
248/250

公園 ※未完

お題:傷だらけの夕日 制限時間:1時間 文字数:1729字


ビル群の向こう側に赤々とした夕日が沈んでいくのに合わせて影が伸びていく。子どもたちに帰宅を促すベルはとっくに鳴り終わり、サッカーをしていた少年たちやブランコに乗っていた少女たちは公園から姿を消した。また明日ね、バイバイと手を振りながら各々の家へと帰っていく。

賑わっていた園内は静まり返った。人っ子一人いない、俺を除いて。

スマホで現在の時刻を見る。待ち合わせの時間を既に十分は過ぎているが、待ち合わせている相手はやってこない。画面のロックを解除してメッセージアプリを開き、昨夜やり取りした待ち合わせ場所と時刻を改めて確認するが、この場所この時間で間違いない。


「…遅刻か?」


例によって待ち合わせ相手が先生だったなら時間を潰そうと思えるが、今待ち合わせている彼女は普段から約束を破るようなルーズな性格ではない。集合時間の五分前には来ているタイプだ。

開いているメッセージアプリで文面を作成する。『公園についた。今どこ?』とシンプルな文章を送ってスマホをポケットに突っ込む。別段急ぐわけでもないので、遅れるなら遅れるで構わない。彼女が何らかの事件や事故に巻き込まれていないなら、それで。

彼女が待ち合わせ場所に指定した公園は公園と言っても、マンションに囲まれている空き地に適当な遊具が置かれただけの殺風景な空間だった。ブランコと滑り台、申し訳程度にベンチが並び、周囲には安全のためにか金網のフェンスが張り巡らされている。

見通しがよく障害物になるようなものもないので、俺はベンチのひとつに座って一つしかない公園の入り口をじっと見ていた。

彼女を待っている間にも日は沈んでいき、辺りはどんどん暗くなってくる。公園には街灯があり既に明かりが灯ってはいるものの、俺の座っているベンチからは若干遠い。足元に夜の気配が忍び寄ってきている。

ぶぶぶ、とポケットの中のスマホが震えた。先ほどのメッセージに対する新着メッセージの知らせかと思いきや、スマホは震え続けている。画面を見ると着信だった。着信相手は彼女。


「もしもし?」

「あ、水春みはるくん? メッセージ見たよ。ごめんね、連絡が遅くなっちゃって」

「いや、俺は大丈夫だけど。鴫崎しぎさきさん、何かあった?」

「あー、実は…」


そこで電話口からざざざっという大きなノイズが聞こえて、何事かを説明している彼女の声を遮った。


「…に偶然会って、話をしてたら……。……だから連絡しようにも…」


言葉がノイズにかき消されてしまい、断片的な言葉しか聞き取れなかった。ノイズが落ち着いてから「もしもし? ごめん、聞こえなかった」と告げると、「あれ? もしもし? 水春くん、聞こえる?」と彼女のほうからも聞かれる。

電波の状況が悪いのかと思って、耳からスマホを離して画面を見てみるがアンテナはちゃんと立っている。彼女のいる場所の電波状況が良くないのだろうかと訝しみつつ、「もしもし」と互いに言い合う。多少なりとも状況が変われば、と思い、座っていたベンチから立ち上がって公園内をうろうろと歩く。程なく彼女との通話が正常になった。


「鴫崎さん、今どこにいる?」

「今? 公園に向かって歩いてるよ。○○マンションの前」


彼女が教えてくれたマンションは公園からでも見えるぐらい近くにある。電話をかけながら公園へと歩いているらしかった。


「俺もそっちに向かうよ」

「え、いいよ。入れ違いになっちゃうかもしれないし。水春くんは公園で待ってて」

「でも」


何か嫌な予感がする、とは言えなかった。こういう嫌な予感は良く当たる。

心配している俺をよそに彼女は「平気だって」と通話口の向こうで明るい声を出す。


「もう公園だって見えてるし…、あ、水春くん!」


薄闇に包まれた公園のフェンスの向こう、右耳にスマホを当てた人影が見えた。鴫崎さんだろう。スマホを持っていない手をこちらに振っている。

俺は通話を切ろうとして、しかし、こちらに近付いてくる彼女の様子がいつもと違っていることに気付いた。


「鴫崎さん、それ、どうした?」

「いやあ、お恥ずかしながら色々とありまして…」


彼女は左腕に包帯をぐるぐると巻いていた。


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