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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
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カラス鳴く ※未完

お題:あいつとカラス 制限時間:1時間 文字数:2095字


夜型人間の俺にとって、カーテンから差し込む朝日は就寝の時間を知らせてくれるサインだった。

朝日が昇る頃に眠り、太陽が真上を通り越してから目を覚ます。本当なら吸血鬼のように太陽の昇っている間は延々と眠っていたいぐらいだけれど、さすがに半日も寝ていられない。

太陽は苦手だ。とりわけ世界中から闇という闇を追い払い、陰に潜むものの存在を消し去ろうとし、つまびらかに照らし出そうとする朝日は大の苦手だ。


十二月の朝は日の出が遅いことにかこつけて、ついつい夜更かししてしまう。

六時を過ぎてようやく空が白みはじめ、カーテンの向こうが薄明るくなってきた頃、外から「カア、カア」とカラスの鳴き声が聞こえた。


近所に街路樹や自然公園などがあるため、どこかにカラスが住み着いてるようだ。道理はよくわからないが、朝になると決まってカラスの鳴き声が聞こえてくる。

かといって、当のカラスが何か悪さをしたという話は聞いたことがない。

カラスの悪いイメージとしてぱっと思いつくのは、ゴミ捨て場で餌になりそうなものを漁っている姿だが、俺は見たことがなかった。俺の住んでいるマンションはゴミ捨て場がきちんと施錠できるタイプなので、カラスも住人以外の人間も簡単には入れない。当然ゴミ漁りもない。

今のところ、俺にとってカラスは就寝時間を教えてくれる体のいいタイマーみたいなものだった。


しかしながら、今朝がたはいつもと様子が違った。カラスの声がやけに近い。というより、俺の家のベランダから聞こえてきているような気がする。

二、三度鳴いて終わったかと思えば「カア、カア、カア」といがらっぽい声が響く。

部屋の明かりは消していて、俺はというとベッドの中に入ったままスマートフォンで小一時間ほどゲームをしていた。プレイしているRPGでは主人公の体力がなくなるまで行えるクエストが後一回分ほど残っている。

とっくに暖房の切れた室内と十二月の朝の冷え込み。ちょうどよく温まった布団から出るのはこの上ない苦行だが、依然として「カア、カア」とカラスのダミ声が聞こえてくる。やかましい。気になる。


爪先からのそりと布団を這い出れば、きんとした空気の冷たさに刺されるようだった。「さむ、さむ」と誰もいない部屋でぼやきつつ、閉じられたカーテンをちらとめくってベランダを見る。


思っていた通り、ベランダの手すりに一羽のカラスがとまっていた。

こちらに背中を向けるような形でとまっているが、何を警戒しているのかきょろきょろと辺りを見回していて落ち着きがない。

大きな爪の細い足がぎゅっと手すりを掴んでいる。黒い羽が朝日を浴びて玉虫色につやつやと輝いていた。いや、カラスなんだから鴉の濡れ羽色か。

嘴がぱかりと開けば「カア、カア」。


とは言え、そのカラスは人んちのベランダの手すりにたまたまとまって鳴いているだけのようだった。一人暮らしの家で園芸趣味もないような人物が家主なら、ベランダに置いているものなんて洗濯物と室外機ぐらいだ。そして、今は洗濯物さえ干していない。

悪さのしようなんてない。ちょっとやかましいが、直にどこかへ飛んでいくだろう。大体カラスはかなり高い知能を持っているので相手にしないほうがいい。


とりとめもなく考えて、さあ、そろそろ寝ようかとめくっていたカーテンを戻そうとした時、カラスがぱっと顔を横に向けた。

横向きについている黒々としたカラスの目と俺の目があった、と直感した。


カラスは微動だにせず、俺を見つめる。先程の落ち着かない様子はどうしたのか、首も動かさず穴が空きそうなほどに俺を見つめている。

カラスに限らず、野性動物と目を合わせるのは実に危険な行為だと俺は知っていた。敵意を持っていると勘違いされれば襲われる可能性もある。目を会わせてしまったら慎重に行動しなければならない。

とは言っても、カラスと俺の間には幸いにして安心な窓ガラスが一枚ある。カラスがぶつかってきても安全だ。嘴や爪で攻撃をされて傷ぐらいは付くかもしれないが、割れることまではないし身の危険はない。


さっさと目をそらして、カーテンを閉ざし、まだぬくもりの残っている布団に潜りこんで昼過ぎまで惰眠を貪る。

そうすればいいとわかっていながら、何故か俺はカラスから目を反らせなかった。決して鳥類愛好家ではないのでカラスがかわいいと思ったわけでもない。もちろん怖いとも思っていない。しかし、カラスから目を離せなかった。


なおもじっと俺を見ているカラスがぱかりと嘴を開けた。またカア、カアとやかましく鳴くのか。それは俺に対する威嚇か。じろじろ見てんじゃねえ、やんのかこら、とでも言いたいのか。

心の中で構えたが、しかして実際に聞こえた声は全く違っていた。


「久しぶりだな、カア」


目が点になる気持ちだった。

聞き間違いだろうか。カラスの嘴から放たれた声はやたらと良いテノールで、はっきりと「久しぶりだな」と言った。

いや、まさかカラスが喋るなんてお伽話じゃあるまいし。俺が寝ぼけているのか。


「カア。おいおい、寝てんじゃねえカア?」


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